読書は一人でするもの、というイメージが強いと思います。でも「ねえねえ、あの本、読んだ?」から始まって、作家の好き嫌い、話題の小説の物語の展開についての共感や違和感、作家のどの作品がいちばん好きか……などを熱っぽく語り合うのも読書の愉しみのひとつです。今回は、その「語り合う」こと三時間以上、という熱い座談会をご紹介します。

 メンバーは小林秀雄賞の選考委員とまったく同じ顔ぶれです。加藤典洋さん、河合隼雄さん、関川夏央さん、堀江敏幸さん、養老孟司さん、の五人。座談会に臨むひと月以上前に、まずは皆さんに「大人のための三十冊」を選んでいただき、そのなかから特にお薦めの一冊を決めて、全員でその極めつけの一冊をじっくりと読んでもらいました。座談会はその五冊を軸に語られていきました。

 養老孟司さんが選んだ一冊は、オリヴァー・サックスの『火星の人類学者』(ハヤカワ文庫)。「頭の病気というのは、本当の精神病だと同じ土俵に立てないから『わからない』で終わっちゃうんだけど、この本に登場するようなケースだと病人というのは特別なものじゃなく、われわれにも繋がってくる要素が出てくるから理解できるし面白いんですね」

 堀江敏幸さんが選んだ一冊は、フィリパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』(岩波少年文庫)。「……もうひとつのポイントは、トムがある種の勇気を持って、一歩を踏み出しているということです。トムは真夜中の庭に、偶然、足を踏み出すわけですが、やはり心のなかで重要な決断をしている」

 関川夏央さんが選んだ一冊は、大岡昇平の『俘虜記』(新潮文庫)。「『俘虜記』は現在の自分たちの姿をも映し出すという点で、傑出した作品です。(中略)勇敢で陽気で手前勝手なアメリカの影響下にある戦後の日本文化を思う時、『俘虜記』は最も予言的だったのではないかと考えます」

 河合隼雄さんが選んだ一冊は、シオドーラ・クローバーの『イシ 北米最後の野生インディアン』(岩波現代文庫)。「『イシ』を選んだのは、ここに書かれていることが、けっして過去に終わった話ではなくて、これから我々が生きていく上で避けて通れないところ、見逃せないところ、大事なことが書かれているからです」

 加藤典洋さんが選んだ一冊は、高田宏の『猪谷六合雄 人間の原型・合理主義自然人』(平凡社ライブラリー)。「高田宏さんの描く猪谷六合雄は、一言でいえば、戦後の日本人として幼年から老境までの全体の僕の理想の人なんです。戦争中、アッツ島玉砕なんていう時に北海道でスキーをしていたりする。自分の身の回りに喜びを見つけて、しゃがみこんでいる。世間に背を向けてるけど世界に向かって立っています」

 ──という五冊の本は、座談会が進むにつれて不思議に、いや必然的につながり始めるのです。それがどのようにつながるのかは……ぜひ誌上でお楽しみください。