A. 世の中を良くするには、もっと多くの「自由」が必要である。

 B. 世の中を良くするには、行き過ぎた「自由」を制限すべきだ。


 みなさんは、AとB、どちらの意見に共感を覚えますか?

 もちろん「世の中」と聞いて何を連想するかによって、答えは異なってくると思います。

 たとえば「教育」ならどうでしょうか?

 子どもに可能な限り自由を与えた方が、個性的で創意あふれる人材に育つのでは? でも、自由にすると格差が生じ、平等が損なわれるのではないか? 厳しく勉強と規律を教え込んだ方が、社会に役立つ人材が育つのでは? いや、そもそも「役立つ人材」などという発想自体が、すでに子どもの「自由な人間性」を踏みにじるものではないか? いやいや、適度な束縛があればこそ、その反作用として自立した人間性が立ち上がってくるのだ……等々、ちょっと考えただけでも、対立するさまざまな意見が思い浮かびます。

 ほかに政治や経済など、われわれが抱えている社会問題の多くは、この自由をめぐる対立軸から考えることができるような気がします。
 はたして、われわれは自由という価値をどのように評価し、どこまで守る必要があるのでしょうか?

 この問いをめぐって、古代ギリシアの時代から現代にいたるまで、多くの哲学者・思想家たちが、思索を深めてきました。もちろん「AかBか」という単純な問いに留まらず、驚くほど多様で厚みのある議論が展開されています。何しろ自由の定義ですら「200以上に及ぶ」(アイザイア・バーリン)と言うのですから!

 この連載では、経済学者として40年以上、ずっとこの問題を考え続けてきた猪木武徳氏が、先哲の思考を辿りながら、自由の価値に迫ります。思いもよらぬ自由のグロテスクさ、あるいは目を瞠るような自由の効用が、次々と明らかになっていく予定です。ご期待下さい。