阿川佐和子さん新訳『ウィニー・ザ・プー』と福岡伸一さん新訳『ドリトル先生航海記』(ともに小社刊)が、好評発売中です。それぞれ子供の頃から大切にしてきた作品にこんどは訳者として向き合ったお二人は、翻訳のプロセスで「至福の時間」を得たといいます。「考える人」春号では、阿川さんと福岡さんが、東京とニューヨークを結んでの往復書簡の形で、その珠玉の時間について語り合ってくださいました。

福岡さんは、こう書きます。「どうしてあんなにドリトル先生の物語に夢中になり、感情移入できたのでしょう。それが今回、訳してみて、あらためてよくわかりました。私は、ドリトル先生みたいになりたい、と願うよりも先に、ドリトル先生に出会う、トミー・スタビンズくんのようになりたい、と思ったからなんですね」。

返事のなかで、阿川さんは45年ぶりの大雪にはしゃいだことを記しながら、こう書きました。「ドリトル先生が未知の世界や宇宙やアフリカへの憧れを膨らませてくれたように、ウィニー・ザ・プーは私たちに、すぐそばにある景色や季節の移り変わりの中から『ほら、こんなとこに面白いもんが落ちてるよ』と教えてくれました。いつも変わらぬ仲間の温かさや寂しさや可笑しさや愛おしさを、間の抜けた調子で示してくれます。おもちゃもテレビもゲームも遊園地もないのに、どうしてこんなに毎日がワクワクドキドキポカポカの連続なのでしょう。プーやその仲間たちとしばらく一緒に過ごしてみれば、誰だって同じ気持ちになるはずです」。

そして、福岡さんはこう返信します。「すぐれた物語というのは、自分自身の中に流れている、あるいは流れていってしまった時間を追体験できる本のことなのだと思います。つまり、このお話になぜ自分は惹かれつづけてきたのか、なぜ大切だと思うのか、その理由のありかが再発見できるということです。(中略)お互いこの仕事が、この年齢になってできたことはたいへん光栄なことだったと思います」。

ここに記したのは、お二人のやりとりの、ほんのごく一部です。ニューヨークと東京の季節感を織り込みながらの心暖まる通信を、ぜひ本誌で味わってください。