散るぞ悲しき』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した梯久美子さんは、小学校三年生の冬、クラスのお楽しみ会の出し物である寸劇の演目に『雪の女王』を選びました。九歳だった梯さんの心を奪ったのは、少年カイが雪の女王に連れ去られるシーンでした。大人になって読み返すとエロティックとさえ思えるこの場面の「冷たい官能性」を、梯さんは「雪の降る地方で育った人にしかイメージできないであろうエロスの感覚」と描写します。

 春号の特集では、国際アンデルセン賞作家賞受賞が決まった上橋菜穂子さんの他、柴門ふみさん、富安陽子さん、木原武一さん、河原理子さん、山極寿一さん、サンキュータツオさんに、「私を育ててくれた一冊」として、若き日に親しんだ大切な児童文学作品をあげていただきました。冒頭に記したのは、梯久美子さんが大切な作品として『雪の女王』をあげてくださったエッセイからの紹介です。アンデルセンの有名な作品の思いがけない読み方の提示です。

 エーリヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』に強い影響を受けたという柴門ふみさんは、かつてよく投げかけられた「女性なのに、男の子の気持ちがなぜ描けるのですか?」という質問への回答を、エッセイの中で打ち明けてくれました。

 仲良し三少年が南太平洋で遭難し、さんご島に漂着。何があっても協力して朗らかに生き抜く姿を描いた『さんご島の三少年』をあげてくださった“ゴリラ博士”の山極寿一さんは、「探検好きの心に生涯消えない火をつけてくれた」と感謝すると同時に、現代の視点からみれば様々な誤解に満ちていたこの物語が、「世界のひどい誤解に気づかせてくれた貴重な財産」でもあったといいます。

 様々な分野で活躍する多才な方々が、成長の過程でどのような物語に影響を受けたのか。興味の尽きない連続エッセイです。春号でぜひお楽しみください。