桜から新緑まで、日本にしばらく滞在していた。月曜日の朝、家の周辺を歩く。運動ではなくて、ゴミ出しに。
 私の住んでいる自治体では、毎週三回のゴミ回収がある。役所から配布された分別ゴミの説明カードを見ながらゴミ袋にまとめて、地区ごとに指定された回収場まで持っていく。
 近隣には雑木林が残っていて、朝早くから野鳥や雀がさかんに飛んでいる。混じって、ホーホケキョ。ホーホケキョ。
 連なるケキョケキョを聞きながら、誰もいない道をゴミを連れて散歩する。
 すると横に並ぶ人がいる。小柄な男の子。ランドセルを背負い、右肩には小ぶりのスポーツバッグを掛け、左腕にはピアニカらしきケースと布袋を持っている。袋の縁から絵の具ケースがのぞいている。よろよろと歩き、一歩ごとにカタカタとランドセルや袋、カバンの中身が鳴っている。
 おはようございます。大変ね。持てますか? 
 声を掛けたら、
 「大丈夫です。だってもう三年生ですから」
 男の子は立ち止まって、ニコニコ顏で自慢げに返した。新学期の風薫る。
 月曜日は、週末にいったん家に持ち帰ったさまざまな道具を再び持って登校する日である。
 その子は立ち止まったまま思案してから、
 「あのね、ちょっといいもの見たいですか?」
 とても見たいですよ。
 じゃあ、といったん道にピアニカを置き、ポケットから大事そうに取り出して、これ。
 小さな黄色の星の形をしたキーホルダーだった。ピカピカ光る粒が埋め込まれてあり、<Giants>と書いてある。
 わあ、すごい。<ジャイアンツ>のキーホルダーなんて、格好いい!
 そうは返したものの、<読売ジャイアンツ>でも<ニューヨーク・ジャイアンツ>のロゴでもない、ただの<Giants>だ。
 男の子は突然、意を決したような顔になり、
 「じゃあ、これ、大谷選手のですか?!」
 声を弾ませた。
 ちょうど移籍後初出場して、連続ホームランを打ったところである。
 いや、大谷翔平選手は<エンゼルス>ですから、これとは違うのよねえ……。
 「そうか、大谷選手のじゃないんだ……」
 星を握り直してポケットにしまい、再び大荷物を持って歩き始めた。

 大谷選手ってすごいよね、一人でアメリカに行って。ご飯も自分で作っているのですって。元気でがんばって欲しいな。本当に<ジャイアント>な選手ですよ……。
 私は男の子と野球の話をしながら、ゴミ回収場まで並んで歩いた。
 キミ、その荷物でこの先、一人で学校まで行けるかな?
 「大丈夫です。おばさん、また会えるといいね!」
 三年生の男の子の思いもかけないひと言が清々しくて、目に沁みた。