誰でも一度は手にしたことのある「文庫本」。文庫本がなぜその形なのか、なぜその大きさ(あるいは小ささ)なのか、考えてみたことはありますか?
 おかげさまで今年、新潮文庫は創刊100年を迎えます。
 記念すべきこの年に、あらためて「文庫本」がいったいどこでどのようにして生まれたのかを探り、その意義を考える特集を企画しました。
 文庫本のルーツをたどると500年以上前のヴェネツィアにたどりつきます。ご存じのとおり、ヴェネツィアは〈海の都〉と呼ばれるほど、水と切り離せない街。湿気の多いこの場所で、なぜ印刷業が栄えたのか。ミラノ在住のジャーナリスト・内田洋子さんに取材して頂きました。
 新潮文庫や岩波文庫が範としたドイツのレクラム文庫に、イギリスのペンギンブックスも文庫の歴史を語る上で避けて通ることはできません。イギリスでの文庫の普及を考えるとき、鉄道網の発達抜きに語ることはできません。一方、わが国独自の文化として江戸時代には「小本(こほん)」が生まれています。古今東西、それぞれの小さな本の魅力を探ります。
 また、一口に文庫といっても、出版社によって装幀や紙、書体など各社さまざまに工夫を凝らしています。“書体マニア”として知られる正木香子さんによる「目においしい書体味くらべ」では、各社文庫の書体を集めて読みくらべました。
 さらに、「私の小さな本」として、さまざまな方に文庫本への思い入れを教えて頂きました。文庫化の際に大幅に加筆することで知られる作家・高村薫さんによる、ズバリ「加筆する理由」。小山田浩子さん、三上延さん、宮下奈都さん、宮田珠己さんといった作家の方々を始め、“氷上の哲学者”フィギュアスケーター町田樹さん、建築家・隈研吾さん、動物行動学者・岡ノ谷一夫さん、シェフ・山田チカラさん、といった幅広いジャンルの方にご登場頂きました。どれも個性的なお話ばかりです。
 中身ももちろん、〈かたち〉も愛しい文庫本。文庫愛に満ちた1冊、本好き・文庫好きには必携です!