今回の文庫特集の「目玉」企画のひとつが鼎談です。いわずと知れた文庫通の坪内祐三さん、作品の多くが文庫に収録される人気作家の角田光代さん、そして、斬新なブックデザインで知られる祖父江慎さんのお三方に、文庫との長いつきあいを基に、文庫という小さな本の魅力をたっぷり語り合っていただきました。

 旅と本をめぐるエッセイも数多く書いていらっしゃる角田光代さんにとって、文庫は旅に欠くべからざる「お供」です。未読本、再読本とりまぜて抱えていくなかで、若いときにわからなかった作品を海外で再読して日本語の美しさを改めて感じたり、開高健の作品は日本語に飢えた状態で読むとぴったりで好きになったことなどを語ってくださいました。

 角田さん、祖父江さんのお二人を「生き字引のように詳しい」と唸らせた坪内さんは、出版各社がロングセラーとして文庫化せずにいた作品を文庫に収録したことで、一九八〇年ごろに文庫の世界が大きく変わったという変遷や、サンリオ文庫の隠れた名作、ウェッジ文庫の渋いラインナップなど、20年近く続く連載コラム「文庫本を狙え!」で培った知識を余すことなく披露してくださっています。

 いきなり文庫をちぎって、木登りしながら短編を読んでいたという思い出話から入ったのは祖父江慎さん。さらに、同じ本を集めるのが好きだそうで、『坊っちゃん』(本来の表記は『坊っちやん』)だけで本棚三棹分お持ちだという驚愕のエピソードが出てきます。そして思わずクスリとしてしまう楽しい話の随所に、新潮文庫や岩波文庫などの書体や紙質、組み方の「硬軟」といった、ブックデザイナーならではの美意識がうかがえます。

 三者三様の目線から浮かび上がる文庫の魅力には、思わず「そう、そう」と膝を打ちたくなるポイントが多々あります。ぜひ誌面で、お三方のはずむ会話に耳を傾けてみてください。