本を読むという行為は、集団で同時に行なおうとしてもなかなか難しいものです。一般化や共時化の似合わない、きわめて個人的な経験です。だからこそ、本の話を「あの人」にこそ聞いてみたい、という気持ちが湧いてきます。「考える人」の編集部が、「あの人」にぜひ、本についてのお話をうかがいたいと思いいたったのが、荒川洋治さん、豊崎由美さん、山田太一さん、北村薫さんの四人でした。

 荒川洋治さんは近著『忘れられる過去』(みすず書房)でも、様々な物故作家を取り上げていますが、今回紹介してくださったのは、第二次世界大戦の最中の一九四三年に亡くなった短篇作家の黒島伝治です。シベリア出兵の兵士でもあった黒島伝治の言葉が、いま少しも古びることなく、指で押せば柔らかく押し返してくるような弾力性を持っていることに皆さんもきっと驚かれることでしょう。

 豊崎由美さんは海外小説の読み手、書評家として右に出る者はいないのでは、という噂の書き手です。分厚いのは当たり前、二分冊になっているのも珍しくない、重厚長大な作品の少なくない海外小説の、長い長い小説を読み進めることの肉体的な労苦とめくるめく快楽の綱引きを、実況中継のように語るこのエッセイのなかで、栄えて選ばれることとなったお墨付きの長篇小説はさて、どんな作品でしょうか。

 山田太一さんは好きな作家の、会見記や周辺の人間による回想録に目がないことを“告白”してくださいました。生身の作家の持っている何ものかに一歩でも近づきたいという思いが優れた一冊の本を誕生させることがあるのです。そんな本のなかで山田さんがベストワンとして推すのは、グスタフ・ヤノーホ『増補版 カフカとの対話』(ちくま学芸文庫)。他にも興味深い本を何冊も挙げてくださいました。

 本の装幀をめぐるお話を書いてくださったのは北村薫さんです。中学生時代から自分の蔵書をオリジナルに装幀することを始めた北村さんは、大学時代には同人誌のデザインも手がけられました。その舞台裏がなかなかのアイディアと内緒話めいた逸話に満ちたものなのですが、それはぜひ誌上でお確かめいただくことにして……。今も大切に保管されていた「自装」の雑誌と本の現物も見せていただくことができました。

 読書のスタイルにはどんなものがあってもいい──。世の中の評判とはまた別の、自分なりの読書を大切に育てたくなる「私の本棚から」をお楽しみください。