第13回小林秀雄賞は、選考委員(加藤典洋氏、養老孟司氏、関川夏央氏、堀江敏幸氏、橋本治氏)のみなさんの満場一致で、山田太一さんの『月日の残像』に決定いたしました。

『月日の残像』は「考える人」2005年冬号から2013年夏号まで、9年におよぶ長期間にわたって連載された山田さんの自伝的エッセイです。疎開先で亡くなった母、早世した四人の兄、父の晩酌、松竹撮影所時代、木下恵介、寺山修司、向田邦子の思い出……。山田さんが70代のほとんどを費やして書かれた本書には、これまでほとんど語ってこられなかったご自分の人生にまつわる話がたっぷりとつまっています。

まずは選評の一部をご紹介しましょう。

加藤典洋氏

選考委員会はこの作品に刺激を受けて、多種多様、いろんなユニークな評を出来させた。私の口をついて出たのは、とくに家族への言及など、節穴から注ぐ光の強さありと。……でも、用意していったメモには最後に、「あまり、一々、理由はあげたくない」ともあり、ナルホドと思い、その辺で口をとざして聞き手に回った。

養老孟司氏

まさに申し分のない受賞作である。だから困る。選評が書けない。おそらくそれは、書き方そのものに、評のような類のものを受け付けない、そういう方法が含まれているからではないかと疑う。

橋本治氏

書き手ばかりが前に出るわけではなく、書かれた文章の中に作者が見事に収まっている、その按配のよさが文章の美しさを作り出していて、「書き手というものはどうあってしかるべきか」ということを静かに教えてくれているところが、凡百の随筆とは違うところだと思い、その姿勢こそが小林秀雄賞にふさわしいのではないかと思います。

今号には、選考委員のみなさんの選評とともに、山田太一さんの受賞者インタビューが掲載されています。湯河原で暮らしていた高校時代、刊行が始まった小林秀雄全集を予約して毎回届くのを楽しみにしていたこと。その後もおりにふれ読み続けてきた小林秀雄のこと。四十年近く暮らしてきた溝ノ口という街のこと。脚本と小説、エッセイの違い。先日放映された新作ドラマ「よろしくな。息子」のこと。そして、一人また一人と先立つ家族を見送りながら、懸命に自分を育ててくれた父のこと。

山田さんのインタビューとともに、ぜひこの機会に、小林秀雄賞受賞作『月日の残像』をお手にとってごらんください。