カラスが喧嘩しているのを見ることがある。とはいえ、多くは餌や順位をめぐる小競り合い程度。大げんかするとしても早春に縄張り境界を決め直す時だけで、年がら年中バトルしているわけではない。

だが、鳥の中には、ただひたすら戦うために作られた品種がある。闘鶏、ファイティング・コックだ。

闘鶏はアジアにもヨーロッパにもあるが、何かを戦わせて盛り上がる、ついでに賭ける、というのは、人間に共通の心理であり文化なのだろう。そういえば子供の頃、確かにクワガタやカブトムシを捕まえると喧嘩させたし、小学校に持ち寄って勝負させてもいた。消しゴムを賭けたりした奴も、いたような気がする。

人間ならショーやゲームとして自主的に戦いもするが、動物を使う場合、喧嘩っ早くて勝敗のはっきりする動物を対面させるのが常である。ウシ、イヌ、コガネグモ、ベタ(闘魚)…… そしてニワトリだ。

ニワトリ、というかニワトリの原種はキジ科の鳥である。キジ科は明確なハーレム制ではないにしても、繁殖期になると雌をめぐって雄同士が戦う鳥だ。雄は子育てに関わらないので、1シーズンに何羽もの雌と交尾できる。雄にとってはいかにライバルを蹴り落として多数の雌と交尾するかが大事だし、雌にとってはいかに優秀な雄の遺伝子を確保するかが大事になる。ここで言う「優秀」は子孫をたくさん残せるという意味で、必ずしも戦いに強いこととは限らない。だが、キジの場合、戦って勝てる雄は子孫をたくさん残せるわけで、結局「強い奴がいい」ということになる。かくしてキジ科の雄たちは雌をめぐって蹴り合う。

そのためだろうが、ニワトリも含め、キジ科鳥類の雄は蹴爪を持っている。蹴爪というのは、前3本・後ろ1本の本来の鳥の指のさらに上に、後ろ向きに突き出した「爪」である。この仲間は雄同士が戦う時、空中に跳び上がりながら向かい合って蹴り合う。蹴爪のついた足で蹴り飛ばすのは立派な凶器攻撃だし、相手の上から踵落としを叩き込むことも不可能ではない。

家禽化されたニワトリにも蹴爪はある。その蹴爪は太く大きく、先端は鋭くはないが円錐形だ。こんなものがぶつかったらひどく痛そうだ。では、その先祖はどうか。ニワトリの原種はセキショクヤケイだが、ヤケイの場合、蹴爪は細くて長くて鋭い棘なのである。鈍器ではなく鋭利な凶器、抜き身の「武器」という雰囲気を漂わせている。これが、外敵もいる野生状態で生き抜き、自力で雌を獲得しなければ子孫を残せない、野生動物のもつ凄味である。ニワトリの場合、外敵からは守られているし、繁殖は人間に管理されているから、雄が頑張ってもどうにもならない部分がある。むしろ、無駄に喧嘩して相手を怪我させてしまうような個体は飼育に向いていない。集団で飼育する以上、必要以上に重武装した個体はいらないのである。

日本で闘鶏といえば軍鶏だが、「シャモ」という名は「シャム」、つまり現在のタイ辺りをさす古名から来ている。ニワトリは簡単に持ち運べるから、海外の品種を輸入してかけ合わせることが盛んに行われた。日本の軍鶏も海外から持ち込まれた品種をもとに、江戸時代に作出されたものである。ただ、それが本当に「シャム」であったかどうかはわからない。東南アジアの代名詞として「シャム」と呼んだだけかもしれない。とはいえ、仮にシャムではなかったとしても、その近辺だったのだろう。

軍鶏は首が長く、体幹の立った、ちょっと変わった形の鶏である。戦うのに適した体型なのだろうか。白軍鶏はあまり美しいと思わないが、赤笹の軍鶏など、首筋に長く赤い羽が生え、黒っぽい胸を張って、実に強そうな姿である。第一、キジ科の鳥は目つきが怖い。桃太郎のお供で有名なキジだって、顔だけじっくり見ると、ものすごく怖い顔である。マンガに出てくるキレたヤンキー、と言えば、おわかりいただけるだろうか。

 

軍鶏というと、もう一つ有名なのが軍鶏鍋だ。江戸時代にも鳥の肉は食べていたが(さらに薬と称してそれなりに獣肉も食べていたっぽいが)、鶏料理の代表格が軍鶏鍋である。そういえば池波正太郎の『鬼平犯科帳』にも軍鶏鍋屋、五鉄が出て来る。「夏も軍鶏鍋しか出さぬ」という五鉄は、もし行けるなら、一度行ってみたい店の一つだ。

もっとも、軍鶏がよく食べられていたのは、うまかったからだけではない。大抵の鶏は採卵用で、重要なのは雌である。雄は育てても無駄だから、種親だけ残して潰してしまう。その肉を食べるにしても、まだ小さな若鶏では量も知れている。一方、雌は卵を生まなくなるまで飼ってから潰すが、この雌の廃鶏という奴、好んで食べることはまずない。フランス料理にはコックオーヴァン、つまり雄鶏のワイン煮込みというのがあるが、プール(雌鶏)でなくコック(雄鶏)であるところがミソだ。雄鶏なら年取ってもなんとか食えるし、ワインに漬け込んでからコトコト煮ればいい味も出る。だが、これが雌鶏となると話が違う。

大学院の頃、雌鶏の廃鶏を食べたことがある。猛禽の研究をしていたコワモテな後輩が山奥の養鶏場のおっちゃんと仲良くなって、猛禽を捕まえるための(おとり)としてニワトリを譲ってもらったのがきっかけである。そいつが「兄ちゃん、ウチの鶏はうまいから!」と言われて、精肉したパックをもらってきたのであった。

研究室で「鶏肉いっぱいあるから食べましょうよ!」と言われ、とりあえず普通に料理してみた。廃鶏であることを考慮し、酒をたっぷり入れて、コトコト煮た。だが、その肉はまるで固いゴムのようであった。噛んでも噛んでも肉はなくならず、噛み切るのも難しかった。それではとサッと火を通してみたが、これまた見事に臭くて固くてマズかった。貰って来た当人は責任を感じてか、黙々と肉を噛み続けた。私も料理した手前、やはり責任を感じて黙々と肉を噛み続けた。もう一人、研究室で一番いかがわしい後輩も、「食えない」と降参するのが悔しかったのか黙々と噛み続けた。理学部2号館で名うてのコワモテ・怪しい・いかがわしい3人組が5分ばかり肉を噛んだ後、「申し訳ないがこれは食えない」ということで意見が一致した。ふと気付いて冷蔵庫を開けると、廃鶏の肉はあと3パック入っていた。

どうすんだよコレ。

その後、「廃鶏をなんとか食べる会」が開催された。思い付いた方法は「圧力鍋で煮る」「コーラで煮る」「ビールで煮る」である。全て試してみた結果、コーラで煮るのが一番うまくいった。甘くなるのが欠点だが、醤油を入れて甘辛くしてしまえば問題ない。それでも「腹を空かせた貧乏院生ならば食べられる程度」にしかならなかったのだが。

そういうわけで、採卵が第一だった頃に食べていた廃鶏なんて、うまいものではなかったはずなのだ。ところが肉用品種が作られるのは意外と遅く、19世紀になってからである。どうも鶏肉というのは、最後に食べるものだから、まずくても仕方ないと思われていた節もある。なんだか不思議である。

 

さて、雌の廃鶏がいかにマズいかを延々と書いてしまったが、軍鶏に戻る。

軍鶏の場合、「こいつは潰して食おう」というタイミングが少し違う。戦わせるために飼っているのだから、弱いやつ、負けた奴は不要である。となると、こういった鶏は年齢に関係なく、常に肉用として供給され得る。しかも軍鶏はデカい(観賞用の小型種もあるが、本来はかなり大きな品種である)。この辺が、軍鶏の肉が有名になった理由の一つであるようだ。

ちなみに、軍鶏鍋用と割り切った場合は他の品種とかけ合わせて、もう少し飼いやすくする。だが、それでも軍鶏の血が入ったニワトリは攻撃的だという。私の通っていた小学校で、私が入学する前に飼育されていたニワトリは軍鶏が混じっていたそうで、飼育係の子供が片っ端から飛び蹴りを喰らわされ、それどころか顔を狙って飛びかかって来るので、とうとう譲ってくれた人に返されたと聞いた。

実のところ、闘鶏をめぐる厳しい事情は海外でも同じだ。知り合いだったフィリピン人に聞かされた話をご紹介しよう。

その人の父親は警察官だったらしい。ちなみに口ぶりからすると、フィリピンの田舎で「警察の偉い人」というのは地元の顔役のようだ。警察署長ともなると、もはやVIPである。「調査に行くなら地元のポリスに挨拶しないとダメだよ、ボスに贈り物しとくと全部ノープロブレムだよ」と恐ろしいことを言われた。

さて、この人の父親は警察をやめた後、養鶏場を経営していたらしい。そして、肉や卵を売るだけでなく、ときどき行われる闘鶏にニワトリを出場させるのも、重要な仕事であったとのこと。

で、フィリピンの闘鶏のおおらかなーーそして切実なーー所はここからだ。男たちが札を振り回してヒートアップし、囲いの中でニワトリが血みどろの蹴り合いをやっている間、その横では火を起こして、鍋を準備している。そして、負けたニワトリはその場でシメてさばいて鍋に放り込んでアドボ(シチュー)になり、賭け金をスッた連中と、負けた飼い主が溜飲を下げると共に、お祭り騒ぎを盛り上げる御馳走になるのである。

 

ついでにカラス同士の戦いについて触れておこう。縄張りを持ったペアは他のカラスを追い出すが、普通は鳴き声で威嚇するだけで済む。それでダメでも、突進したり平行して飛んだりすれば「あ、いけね」と侵入者が逃げる。ただし、時には盛大な空中戦をやることもある。特に1月末から2月頃、その年の繁殖が始まる前によく見かける。カラスの飛行能力は猛禽には遠く及ばないが、ペアで交互に相手の頭上をとって急降下と急上昇を繰り返しつつ、見事な連携プレーで追い詰めるくらいのことはやる。時には空中で向き合ったままお互いに相手の翼に噛みつき、ボカスカ蹴り飛ばしながら団子になって落ちてくる、なんて激闘も見ることがある。

 

さて、本来ならここで実際の闘鶏について、また賭けごとの心理について滔々と語りたいのだが、あいにく私は闘鶏を見たことがない。賭けごとは全て遠ざけているので、これまた語ることがない。おまけに軍鶏も食べた記憶がない。軍鶏鍋でも食べれば話題が広がると思うので、そこは連載担当のAさんに期待して筆をおくことにする。

Back streets of Tokyo

次回につづく