今回はちょっと趣向を変えて、猛禽の話題である。

猛禽といえば孤高の空のハンター、大空の勇者、といったイメージは世界共通である。紋章に猛禽を用いた例も多い。アメリカの象徴はハクトウワシだし、ロマノフ王家の紋章もワシだった。戦闘機にも猛禽の名前をつけた例は多い。米軍の戦闘機にはホーク、イーグル、ファルコン、ラプターなんてのがあるし、イタリアにはファルコ(ハヤブサ)がある。日本にも陸軍一式戦闘機「隼」があった。

 

猛禽は捕食に特化した鳥だ。大きく鋭い爪と嘴を持ち、生きた獲物を捕まえ、切り裂いて食べる。獲物を追って捕獲するため、運動能力も高いものが多い。

例えば、ハヤブサの武器は急降下だ。獲物を見つけたハヤブサは翼を小さく畳み、上空から落下してくる。超高速で突っ込みながら翼を操って獲物を追い、すれ違いざまに足を出して蹴る。この時に一撃で獲物を掴んでしまうこともあるし、辻斬りのように爪で切りつけて墜落させ、落ちて行く獲物をさらに追って捕まえることもある。その降下速度、実に時速400キロ。

まあ400キロというのは実験的な記録なので、常にそんな速度を出すわけではないだろうが、その速度まで大丈夫というのはすごいことだ。人間の作った飛行機でさえ、例えばセスナ172(ベストセラーだった軽飛行機)の超過禁止速度は時速300キロほど。セスナでハヤブサを追いかけると、飛行機の方が先に空中分解する恐れがある。

空戦能力も恐ろしいものがある。鳥はめったに横転することはないが、トビはヒョイと360度横転を決めることができる。急上昇して半宙返りの背面姿勢から180度横転して背中を上にするアクロバットもやる。飛行機で言えばインメルマン・ターンという技だ。

それどころか、猛禽が空中で戦う時には、体をのけぞらせ、腹を上に向けて尾を前にして飛ぶ、なんてことまでやってのける。さすがにこの体勢で飛べるのはほんの一瞬だが、飛行機でこれに近いことができるのはSu-27やF-22といった、ポスト・ストール機動に優れた戦闘機に限られる。

 

さて、猛禽というと一般的にはワシ・タカ・ハヤブサを指す言葉だ。かつてこの仲間は生物学的にも近縁だと思われていた。だが、遺伝子を用いた系統解析によると、ワシ・タカは近縁だが、ハヤブサは別グループである。ハヤブサにもっとも近いのはなんと、インコ・オウム。あのオカメインコさんが、空の通り魔ハヤブサの親戚だったのだ。

全くわけのわからない話だが、よーく見ると、ハヤブサの丸い頭や嘴はインコに似ていなくもない。ハヤブサとインコ、なんで肉食と果実食に分かれてしまったのかと思うが、どうやら肉食の方が基本で、ベジタリアン化したヘンな奴がインコだった、ということらしい。もっともニュージーランドにいるケアというオウムは鋭い嘴を持ち、動物を食べることもある。羊の背中にとまって肉をつつくという理由で駆除されていたくらいだ。

猛禽にしたって、全てが空を駆けるハンターというわけではない。日本で繁殖するサシバというタカは水田近くに住み、バッタやカエルやヘビを食べている。田んぼの外れの枝に止まり、サッと翼を広げて颯爽と舞い降りるなり、ガッシガッシと歩いて餌を足で踏む。最後がなんだかマヌケである。沖縄のカンムリワシもそうだ。英語でサーペントイーグル(ヘビワシ)というくらいで、やはり地上の小動物を食べている。頭に冠羽、大きな翼となかなか威厳のある姿なのだが、こいつが「のっしのっし、ガシッ」とカエルを踏んづけているのを見ると「なんだかなー」と思わずにいられない。それどころか、車に轢かれてペッタンコにされたカエルなんかも、よく食べている。

カンムリワシは、日本では八重山諸島周辺にだけ分布する鳥だ。日本全体で見れば珍しい鳥なのだが、西表島に行くとよく見られる。最初は「うおーカンムリワシ!」と大喜びで写真を撮っていたが、2日目には「ああ、カンムリワシね」くらいにインフレを起こした。あまり人を恐れず、餌を得やすい道端にいることも多いので、何度も見かけるからである。こういう、分布は限られているが、いるところでは珍しくもなんともないという例はしばしばある。

石垣島の前勢岳というところでカラスを調査したことがあるのだが、薄暗い森の中の林道をスクーターで走って行くと、ガードレールに何かがいた。カラスか? と思って速度を落としたら、それはカンムリワシだった。とりあえず通り過ぎて調査を続け、1時間ほどして戻って来たら、カンムリワシは全く同じところに止まったままだった。ただ、さっきは顔を左に向けていたのが、今度は右向きだった。間違い探しか。さらに1時間ほどしてまた通ったら、さすがにもういなかった。そりゃ2時間もボーッとしてねえよな、と思ったら、頭上の枝にいた。5メートルも移動していない。猛禽のもう一つの顔は、このように「徹底して動かない」ことである。

小鳥は常にチョコマカと動いていて片時もじっとしていないが、猛禽は1時間やそこら平気だ。観察していると、見ているこっちは目を離せないし、さりとて猛禽はまるで動かないし、地味に辛い。やっと動くかと思ったら、「よっこいせ」と枝の上で向きを変えて、また動かなくなる。カラスも枝の上で昼寝していると1時間くらい動かないこともあるが、枝に止まった猛禽は身じろぎもしないのが平常運転だ。

考えてみれば、彼らは獲物を探しているのだ。身動きして自分の居場所を知らせるのは得策ではない。獲物を探していない時も、やはり無駄に動くべきではない。捕食動物はいつ獲物が手に入るかわからないから、不要不急なエネルギー消費は避けた方がいい。一番いいのは、じっとして省エネモードになっていることである。

この辺が、猛禽は「カッコいい」イメージがあっても「賢い」イメージがあまりない理由である。とにかく何もしないのだ。狩りの時は当然、獲物の動きを読んだり待ち伏せしたりと頭を使うはずなのだが、普段は何か考えているように見えない。ハトやカラスのように実験的に知能を調べた例はないのだが、そもそも実験に付き合ってくれる、という感じでもない。こいつら、実はおバカ……? いや、普段はぼーっとしているように見えて、やる時はやる、というのも、それはそれでカッコいい。しかしやっぱり、何も考えていないように見えてしまうのである。

と思っていたら、最近、オーストラリアの猛禽が草原に放火して獲物を追い出している、という研究が出た。な、何だってー!

よく読んで見ると、オーストラリアではもともと野火が多く、焼け出された動物を狙って猛禽も集まるのだそうである。その時、火のついた燃えさしを持って飛ぶ猛禽がいて、これを落としてさらに火事が広まることがある、という観察であった。

確かにこの例では「放火」によって利益を得ている。ただし、この観察からは、猛禽が意図的に放火しているかどうかはわからない。何かと間違って燃えさしを掴んで飛び、途中で「あ、コレ違うわ」と落としたら偶然うまくいったということもあるからだ。意図的である可能性を否定はできないが、まだ肯定することもできない。

まあ、知能というのは生きるのに必要な性能の一つにすぎない。猛禽はその高い身体能力で全てを解決できるというのであれば、それはそれで、ケチをつけるいわれはないだろう。

 

ところで、カラスは猛禽が大嫌いである。たいていの鳥は猛禽を見ると黙るか逃げるかする。だが、カラスは猛禽を見つけるなり大声をあげて突撃し、寄ってたかって嫌がらせをする。正面から攻撃する度胸はない(というか、鳥類界の戦闘機相手にそんなことをしたら死んでしまう)から、後ろから近づいて尾羽をくわえて引っ張る、上から蹴飛ばす、といった地味な攻撃をしつこく繰り返す。猛禽の方は面倒くさそうにヒョイ、ヒョイと避けながら飛び去ってしまう。猛禽としてはこんなところでカラス相手に無駄な戦いをする意味がないからだ。大騒ぎされれば小鳥にも気づかれているから、さっさとカラスを振り切って次の獲物を探した方がいい。

これは作戦として間違いではない。カラスは猛禽を追い払えばいいのであって、やっつける必要はない。昔の爆撃機は後方や側方から迫る敵戦闘機を撃退するための防御機銃を積んでいたが、これも相手を撃墜する必要は必ずしもなく、射撃位置につかせなければ役目を果たせる。戦闘機だって撃たれたら避けるしかなく、避けている間は自分が狙いを定められないからだ。嫌がらせ攻撃というのも、それはそれで有効なのである。

カラスが猛禽を嫌うのは、捕食される恐れがあるからだ。カラスはかなり無敵に見えるが、オオタカくらいのサイズになるとカラスを襲って食べることがある。オオタカはカラスと同じかやや大きいくらいだが、彼らは自分より重いカモだって狙えるのだ。カラスくらい楽勝である。実際、狭山丘陵で観察されたオオタカはカラスのねぐら近くで待ち伏せし、飛んでくるカラスを下から襲って常食していたという。そのせいだと思うが、京都でカラスを調査していた下鴨神社にオオタカが来た時は大騒ぎだった。オオタカはカラスのナワバリが3つ接するあたりに止まっていたのだが、それぞれのナワバリからカラスのペアが攻撃に来て、都合6羽のカラスがてんでにオオタカを蹴飛ばそうとした。オオタカは枝に止まったまま、カラスが頭をかすめるとヒョイと首をすくめる。そのうち、興奮したカラス同士までが喧嘩を始めて、誰が何をやってるんだかわからなくなってしまった。要するに、我を忘れるくらい嫌いなのである。

 

そんなわけで、カラスを観察していると、カラスが大騒ぎをして猛禽の存在を教えてくれることがある。私はカラスと違って猛禽が嫌いというわけではないので、そのつど、「おー、猛禽だー」と双眼鏡で眺めて楽しませてもらっている。

カラスvs.トビ

次回につづく