鷹狩りは世界に広くある狩猟法だ。

英語ではファルコンリィで、ホークでもイーグルでもなく、ファルコン(ハヤブサ)を冠した名で呼ばれている。実際、狩りにハヤブサの仲間を使うことがあり、長距離をカッ飛ぶことができるセイカーハヤブサや、大きくて美しいシロハヤブサも使われる。それ以外にはオオタカ、ハイタカ、イヌワシ、ハリスホークなども使われる。日本ではクマタカが使われることもあったが、歴史的に見れば一般的ではない。

 

猛禽の能力を見ていれば、「ああ、あの獲物を自分のところに届けてくれたら!」と思うのはごく自然だ。旧約聖書には荒野に身を隠した預言者に、タカ(あるいはハヤブサ)が食物を届けた、というくだりもある。

鷹狩りの起源は古く、おそらく紀元前2000年頃には、中央アジアあたりで始まっていたようである。その後、中国やヨーロッパ、アラブ、インドなどに伝播してゆく。ヨーロッパに広めたのはフン族だったようだ。

現代の中央アジアでも鷹狩りは盛んだが、この地域はイヌワシ、特にメスのイヌワシを使う点で独特である。猛禽は一般に性的二形があり、メスの方が大きい。ただでさえ大きなイヌワシの、しかもメスとなると相当な大きさで、捕獲できる獲物もまた、大きい。訓練されたイヌワシはキツネや、時にオオカミまで仕留めるという。ただし、これは肉用ではなく毛皮用である。

彼らはイヌワシの巣内雛を捕獲して、人為的に育てて訓練する。でないと飼い馴らせないからだが、ここに、中央アジア独特の利点がある。乾燥した平原地帯なので、イヌワシも草原からちょこっと盛り上がった土の上なんかに営巣しているのだ。これが日本やヨーロッパなら、高い木や断崖絶壁によじ登って捕まえてこなければならない。

 

鷹狩りの面白いところは、多くが王侯貴族の嗜みとして発達したことだ。本当に生計の手段として鷹狩りが成立した例は、ほとんどないと思う。というのは、タカを飼っておくのに餌が必要だからである。網や罠や飛び道具を使って獲物を獲れば、それは全部自分のものにできるが、タカを使う場合、タカの食い扶持がいる。たとえ獲物が獲れなくても餌がいる。しかもそれは貴重な肉で、雑穀や芋では済まないのだ。そういう意味では飼い主より贅沢である。タカを使わなければ獲れず、かつ極めて高く売れる獲物でもない限り、あまり効率のよい狩猟法とは言えないだろう。

成立したかもしれない例としては、イヌワシを使うモンゴルの鷹狩りがある。これは食用ではなく毛皮を獲るためで、肉はイヌワシに食わせてもいい。また、毛皮は高く売れる(もしくは物々交換される)。さらに、毛皮を狙うのは冬だが、夏になったらイヌワシを野に返してしまうことも多いので、休猟期の餌がいらない場合もある。日本では東北地方のマタギがクマタカを用いた毛皮猟を行ったが、明治から昭和前半が中心だったようだ。おそらく大陸出兵や航空機の発達により、防寒用の毛皮需要が高まったためだろう。そういう特殊な事情がないと、生業としてペイしないように思われる。

では王侯貴族は何のために無駄を承知で鷹狩りを行ったかと言えば、もちろん、儀式的な、あるいは娯楽としての狩りである。

日本でも武士は狩りをしたが、これは狩猟そのものが目的ではなく、戦の練習と称していたからである。江戸時代には将軍家お狩場があり、ここでは鷹狩りも行われたが、これも武家の頭領たる将軍の嗜みとして「やるべきこと」とみなされていたからだ。また、天皇家に対して将軍が手ずから獲ったツルを贈るなどの決まりもあり、狩りをしないわけにはいかなかったからでもある。もっとも時代が下がると完全に形式化して、自分で獲ったりはしないことが多かったようだが。

西洋でも同じく、貴族階級の嗜みとして鷹狩りが行われた。ここで重要な獲物の一つは、アオサギである。なんでまた、と思うかもしれないが、目的はアオサギの背中や胸元に生えた、房状の飾り羽だ。これがご婦人の帽子などの装飾に使われていたからである。

そういうわけで、貴族たちは大規模な狩猟の会を催し、貴婦人の目の前で自慢のタカを放ってアオサギを仕留め、その羽を恭しく差し出して贈り物とした。アオサギはかなり大きな鳥だが、オオタカは野生状態でもコサギくらいなら余裕で狙う。まして鷹狩り用のタカは大きな獲物を襲うように訓練されているから、アオサギでもなんとかなるだろう(それにサギは大きいが細身で軽い鳥だ)。

ただし、聞いた話ではアオサギの巡航速度は意外に速く、上空を飛ぶアオサギを上昇しながら追いかけるのは、猛禽にも荷が重いそうである。単に追いつけるだけではだめで、有利なポジションから攻撃をしかけるには、かなり優速でなくてはならない。戦闘機同士の空中戦の場合、敵機の1.5倍くらいの速度がないと好きなように小突き回せないと聞いたことがある。もちろんタカが先に上空にいれば降下して加速しながら襲撃できるが、そんなにうまい場面ばかりとも限らないだろう。狩りに失敗することはあったはずだ。そういう時は、そしらぬ顔で事前に用意しておいた羽を差し出したちゃっかり者の貴族もいたのではないか、と想像する。

 

猛禽は本来、むやみに大きな獲物を狙うことはない。体に見合わない獲物を襲って失敗しても効率が悪いからだ。だが、鷹狩りの場合は時にキツネくらいまで狙わせることがあるし、アラブ諸国ではノガン(野雁)までが獲物になる。ノガンは草原に住む大型の鳥で、太い体と長い首はガンに似ている。ただしガンより足が長く、歩くのが得意だ。飛ぶことのできる陸生鳥類としては最大級で、体重は最大で15キロ以上になる。オオタカの体重はせいぜい1キロだ。シロハヤブサでも1.5キロくらいなので、自分の10倍もある獲物を襲っていることになる。

そう、アラブの鷹狩りと言えばシロハヤブサなのである。シロハヤブサはハヤブサ科の中で最も大きく、白い体に黒い斑点が入った、美しい鳥だ。生息地は北極圏など北半球の高緯度地域。白い体色はもちろん、雪の中で目立たないようにである。

ちょっと待った。その寒いところの鳥が、なんでアラブの砂漠に? もちろん、人為的に繁殖させたか、買い付けて来たのである。大富豪や王族にとって、珍しくて立派なタカを所有していることはステータスであり、白くて堂々たる大きさのシロハヤブサなら申し分ないのだ。そういえばアラブの大富豪は普段はロールスロイスのリムジンに乗り、厩舎に自分の馬を視察に行く時はレンジローバーに乗り、砂漠でトライアルごっこをして遊ぶ時はランドクルーザーに乗ると聞いたことがある。TPOに合わせて「その分野で最高」を選んでいるわけだが、カッコいいタカも同じようなものなのだろう。

 

鷹狩りにはモノ文化の側面もある。用いる道具が大変に凝っているからだ。

例えば、タカに被せる目隠し。タカを無駄に興奮させないため、普段は目まで覆う頭巾を被せるのだが、日本の場合は大変に上等な錦であったり、刺子であったりする。アラブ式なら革製で房飾りなどもついている。この頭巾を取ってタカに獲物を見せ、タカが「よし、あれか!」と身構えたら、狩のスタートだという。足には紐をつけ、飛ばせたくない時はこの紐を握るか、止まり木に結ぶ。この紐も、凝った組紐だったり、革を編んだものだったりと、ずいぶん手の込んだものだ。さらに、タカの足につける鈴もある。腕に止まらせるなら、分厚い革製の手袋や手甲をつけなければ危険だ。止まり木さえも大変な工芸品で、アラブ式ならタカが爪を痛めないよう、針刺しのようなふんわりした曲線の丸い革製クッションに止まらせる。

武具でも茶道具でもそうだが、こういった、単機能な道具を細かく使い分けて全部揃えておく、というのは金と暇がなくてはできない。さらに装飾に贅を凝らし、それ自身が趣味的な世界として発展してゆくのも、実用性を離れた文化的側面としてよくあることだ。長い時間をかけて宮廷や王室と共に発展して来ただけのことはあるのだ。

とはいえ、現在はほぼ、鷹狩りの実用的な側面はない。狩猟をするなら銃の方がよっぽど実用的かつ手っ取り早い。どう考えても、タカの飼い方を覚え鷹狩りの方法を覚え、タカを飼い慣らして使えるようになる方が、猟銃の免許より面倒である。とはいえ、(狩猟の是非はおくとして)ゲームとして楽しむのであれば「手っ取り早く獲れる」のは二の次。言ってみれば、王侯貴族の楽しみとして発展した鷹狩りが、今やそれなりに庶民のものになったとも言える。これもまた世のならいである。

 

さて、カラス避けに飼いならした猛禽を飛ばすというアイディアがある。実行されている時もある。確かに、近くを猛禽が飛べば、カラスは大騒ぎする。大騒ぎはするのだが、これは「恐れて近づかなくなる」につながるか?

ちょっと考えてほしいのは、野生状態なら、カラスの周囲には猛禽がいる方が普通だ、ということだ。

それどころか、都内でも有数のねぐら、明治神宮の森にはオオタカが繁殖している。だが、隣接する代々木公園も含めて、カラスがこの辺りを避けている様子は特にない。ひょっとしたらオオタカがいるせいで避けているカラスもいるかもしれないのだが、避けていてもあの程度なら、要するに役に立っていないのではなかろうか。

カラスが猛禽を見ると激怒して追い回す。一方、猛禽に襲われたら逃げるのも確かだ。だが、一度や二度、猛禽が出たからといって、その場を避けるようになるとは考えられない。そんなことをしていたら、カラスの居場所は世界のどこにもなくなってしまうからである。

いろんな鳥が自由に暮らす「自然豊かな山」には、当然、猛禽もいる。一方では「猛禽もいる自然豊かな山」には鳥がたくさんいると言い、一方では「猛禽が飛ぶと怖がって鳥がいなくなる」と言い…… なんかヘンでしょ?

カラスもタカも、そんなに都合のいいものではない。カラスも他の鳥と同様、タカやフクロウに狙われながら生きてきたのだ。時々タカが飛ぶくらいのことは、織り込み済みなはずである。

黒い恋人たち

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