「この世では、死と税金を除いては何も定かではない」
In this world nothing can be said to be certain,except death and taxes.
ベンジャミン・フランクリン。

 さて、消費税。
 1989年に日本に導入されて3%から始まった消費税を、2019年10月から10%に引き上げる方針が表明された。
 笑う、イタリアの同僚達。日本の消費税に該当するイタリアの付加価値税率は、数年前からすでに22%なのである。
 1973年から導入され、当初の6%から8%、そして9%、12%、14%、15%、18%、19%、20%、21%と、意気盛んな昇り竜のごとく上方修正され続けて、とうとう現行の22%に到達している。2017年1月からさらなる増税が決まっていたのだが、宙ぶらりん政権が続いたり、政変による予算法の未決で増税は据え置かれたままになっている。天災や難民対策、慢性的な不況で、財政赤字は絶望的な桁数へと達している。増税は避けられないだろう。
 日常生活で個人が商品を買ったりサービスを受けたりする都度、22%の付加価値税を払っているというわけだが、生活必需品など部分的には軽減税率4%が適用されている。天井知らずで増税されると、国民の暮らしに弊害が出るものが対象となっている。
 例えば、食料品(野菜、パン、パスタ、乳製品、オリーブオイルなど)。その他に、書籍、新聞、医療補助器具、市内をバリアフリーにするための費用なども、軽減されて税率4%である。
 同じ食料品とはいえ税率が10%のものもある(米、小麦粉、卵、鮮魚、肉、果物、ハム、砂糖、酢など)。医薬品、映画、建物の修復関連、観葉植物、肥料、電車の運賃、ホテルやレストランなども、税率10%と軽減対象だ。同じ範疇にあるのに、例えば炭水化物なのにパンやパスタは4%で米や小麦粉は10%、と軽減率が異なるのは、消費総量や加工過程(つまり小麦粉に<製造>という経済活動が加わって<パン>という新しいものが生まれる)の差によるものなのだろうか。その区分は、実にややこしい。 
 実際にはほとんどが内税のため、どこでどれだけの税額を払っているのか消費者には見えない。「なんだか最近、物価が上がったなあ」と、嘆くのがせいぜいである。
 導入された当初は、皆、細心の注意を払ってチェックしていたものの、国民に有無を言わせず目まぐるしく増税され続け、途中ヨーロッパ連合が出来てユーロに統一されると、イタリア独自の経済政策や事情だけではない激変が起き、一般国民にはわけがわからない状態となった。世の中の全ての価格が上がり、何にでも税金が上乗せされて押し寄せてくる、という恐怖心が募るばかりである。

 
 

 付加価値税が一般消費者の目に見えるケースとしては、例えば室内の壁面塗り替えを頼んだ場合などである。塗装業者に見積もりを取り、「1000ユーロでしょうかね」。
 正規に発注を掛け、支払、領収書と進めると、この1000ユーロが最後には1220ユーロとなる。え!?
 職人と頭を寄せ、「では正規でなくてもよいので」と、低い声で持ちかける。室内塗装により起こりうる問題は、職人の作業中の怪我や器物破損などだろうか。作業終了後に、クレームを付けたり訴訟したりする問題が出る危機を孕むような購買ごとなら、証拠になる一連の正規書類を事前に揃えておいたほうが懸命だろう。けれども、塗装作業中に問題が起きてもお互いに責任を取りましょう、と目と目で誓い合い、付加価値税22%を除けた額で支払いを締めることで手を打つのである。正規受注しないため、請求書も領収書も発行しない。よって、塗装業者は計上しない。帳簿外の<暗闇の支払い>を客から受け取る。違法だけれど、業者も客も金銭的に得をする。
 しかしそんなことは、税務警察はお見通しである。いつもどこかで見張っている。もちろん私服で潜んでいて、抜き打ちで調べる。
 青空市場の露天商でも、ポータブルのレジを毎度、打たなければならない。市場のどこで税務警察が見張っているかわからない。一見の客には、必ずレシートを打つ。二度、三度目でも気を抜かない。常連になると、ときどきレシートを打たない。その代わり、「毎度ありがとうございます!」と、心付けを加えたりする。
 しかし、慣れて気を緩ませた頃が危ない。
 どこにでもある町のタバコ店で、小学生がチューインガムを買った。「一人で買い物ができるようになって、感心だねえ」。レシートを打たずに、店主はガム一個を生まれたときから知る子に手渡す。男の子はガム代を払い喜んで店を出て、一枚食べる。 
 「レシートを見せてください」
 店の外で待っていた税務警察官が、幼子に向かって言った。七歳の子は、わけがわからない。半べそで、「ないです」。税務警察官は保護者から調書を取り、罰金支払命令書を送った。付加価値税未納のかどで。レシートを打たなかった店主だけでなく、受け取らなかった客、男の子も罰せられたのである。
 さすがの事態に当時のマスコミは騒いだが、『税と死からは逃れることができない』のだ。
 税法と納税、逃れる方法のイタチごっこを調べると、生きたイタリアの経済史が浮かび上がる。