基本、飼えない。以上。

と、これだけで原稿を終えるわけにもいかないだろう。少し説明しよう。

まず、日本の法律では、日本の野鳥は基本的に飼ってはいけないものとなっている。昔はウグイスやメジロやホオジロなど、飼ってもいい野鳥がたくさんあったが、今は捕まえて飼うのは禁止になった(厳密には愛玩目的の捕獲許可を出さないことにした、だが)。

日本人は昔から、小鳥を飼うのが好きだった。愛玩用にただ飼うこともあるし、歌を競わせるために飼う場合もある。ウグイスもメジロもホオジロのような歌のうまい鳥で、歌人が歌を競うように、持ち寄った鳥のさえずりを競わせる「鳴き合わせ」と呼ばれるゲームがあった。ヒバリは天高く舞い上がりながら鳴く鳥だが、これも籠から飛ばして高鳴きさせ、また籠に戻らせるといった技があったらしい。

これは飼育技術と動物を「仕込む」技術を極めたような大した技なのだが、一方で野鳥をどんどん捕まえて飼育用に流通させる、という意味でもある。こういった商業ベースの捕獲産業は野鳥の乱獲につながりかねない、というか、確実にそうなる、いや、実際にそうなった歴史がある。

事実、最近までメジロの密猟が後を絶たなかった。巧妙なのは、「これは正当に輸入した鳥ですよ」という許可証をつけたメジロを外国から輸入し、日本で密猟したメジロにすり替えてしまう例だ。日本産、特に屋久島などのメジロは声が良いとされているからである。その結果、日本のメジロは密猟され続ける上、用済みになった輸入メジロは野外に捨てられるので、どういうわけか日本で大陸産のチョウセンメジロが野生化している、という事態になってしまった。

かくして、「飼い鳥として指定されている鳥は捕まえて飼ってもいい」だったのが、最終的に「愛玩用の捕獲は事実上認めない」となった。飼育愛好家にとっては残念かもしれないが、そうしないと鳥への加害が大きすぎるのだ。これが、「そもそも野鳥は飼っていいのか」に関する現状の法規制である。

 

さて、カラスの場合はそもそも愛玩用の捕獲が認められた鳥ではない。しかし、狩猟鳥ではあるので、条件つきで捕まえることはできる。狩猟免許を持った人なら、狩猟期間中に許可された方法で捕獲することができる。免許がなくても、自分の敷地で、狩猟期間中に、特定猟法以外の狩猟方法で捕まえるのは違法ではない。特定猟法というのは免許のいる猟法、つまり罠とか銃だ。ということは、「狩猟期間中に自分の家の庭に入ってきたカラスを手づかみで獲った」などなら違法ではない。まあ、「できるものならやってみろ」レベルで難易度が高いからこそ、規制されていないのだが。

で、この獲ったカラスを飼ってもいいか?

飼ってもいいと狩猟法に明言されているわけではないが、いくつかの自治体では飼育してもよいという判断、とのことだ(ただしこの辺は解釈の問題なので、私としては責任を持った返事をしかねる)。考え方としては釣ったコイを生簀に放してある、といったものと同じらしい。また、カラス猟の時に生きたカラスをオトリにすることもあるので、そのために飼育しておく例もあるようだ。考えてみれば殺してもいいものを飼ってはいけないというのも変な話である。

ということで、捕獲して飼育も、できないことではない。ただし、道具を使わずに手捕りとなると果てしなくその道は遠いし、自分に飛びかかってとっ捕まえやがった人間にカラスが簡単に懐くとも思えない。手づかみできるような距離までカラスが近づくなら、それは飼うまでもなく、とっくに「仲良し」である。これを裏切って捕まえてからもう一度慣らすのは、どう考えても不毛だ。

 

ただ、実際には野生だったカラスを飼っている人は時々いる。一つは許可をとっての救護、もう一つは「違法だが、目くじら立てることもあるまい」というお目こぼしである。

許可をとっての救護としては、例えば傷病鳥の救護ボランティアがある。登録や研修が必要な場合もあるが、怪我などで救護されたものの、怪我がひどくてもう野生には戻せない野鳥を引き取って飼育する制度である。私の知り合いは片翼を切断したハシボソガラスを飼っていた。もっとも、こういった鳥はそんなにはいない。

もう一つは、その辺に落っこちて死にそうになっていた巣立ち雛や、巣の撤去に伴って殺処分される雛を見かねて、つい飼っちゃったという場合である。これは違法なのだが、まあ、その気持ちはわからんでもないので、あまり悪く言う気にはなれない。だが、くれぐれも、これを言い訳に「ウヒヒ、じゃあ拾って飼えるんじゃんラッキー」などと思ってはいけない。そういうズルいことを考える人には、カラスと私の呪いが降りかかる。呪いの詳細を記すことは差し控えるが、ゆめゆめ、そんなことを考えないように。一つだけ言っておきたいのは、野鳥を捕らえて閉じ込めて手元に置こうというのは、それがどんなに魅力的に思えても、やはりどこか歪んだ愛情でもあるのではないか、ということだ。まあ、愛情とはそういうものかもしれないが。

 

それでもカラスを飼いたいという人に、さらに告げよう。私が知る限り、カラスを飼うのはとんでもない大ごとである。

まず、カラスは大きい。ハシブトガラスなら全長56センチ、そこにいるだけでわりと邪魔だ。小型犬か猫くらいのサイズ感と言ってもいい。

なんだ、それなら部屋飼いが普通じゃないの、なんて思ってはならない。相手は鳥だ。3Dで動けるのである。好き勝手なところに飛び乗ってくるし、目の前をバタバタと飛ぶし、突然バサバサと飛び降りてくる。体重800グラムにもなる鳥を支える羽ばたきは強烈だ。500mlのペットボトルより重いものを浮かせる「風」というものが想像できるだろうか? 舞い降りた瞬間、周囲にあるものは全て吹っ飛ぶ。ハガキ、写真、書類、請求書…… 身近にある紙モノは案外多いが、これが全て吹っ飛ぶ。

そして、カラスはいたずら好きである。彼らは気になるものは全て、つつく。とにかく、つつく。そしてぶっ壊す。それから、持って行って隠す。ある知り合い(いろんな意味でとんがった人で、ついでに女王様である)はカラスを飼育していた時、マンションの一室をカラスに与えた、と言っていた。でないと置いてある全てのものをバラバラにされてしまうからである。それも、壊してほしくないものから真っ先に狙いすまして壊す(この辺は猫と同じだ)。うっかり携帯を置き忘れて外出し、帰って来たらカタログ写真みたいにバラバラに分解されていたこともあったという。外出する前にケージに閉じ込めたはずだったそうだが、なんの、カラスが執拗につつきまわせば、ケージの留め金を外すくらい朝飯前なのである。針金で止めておいてもダメだ。それくらいは器用にほどいてしまう。何せ、捕獲して巾着袋に入れて口を縛っておいても、袋の内側からゴソゴソやって隙間を広げ、最後は紐をほどいて抜け出して来るのである。なお、これは「やり方を知っている」のではない。カラスは絶望的にしつこいので、執拗につつき回していればそのうち留め金は外れ、結び目も解ける、という理由である。

餌も要注意だ。もちろん、十分なタンパク質とビタミンとミネラルが必要なのは言うまでもないが、それに加えて、カラスはご馳走を貯食する鳥である。機嫌よく食べるからとあれこれ与えていると、ある日、部屋の一角から異臭がすることに気づくであろう。そこには腐りかけた(あるいはすでに腐った)ドッグフード、ソーセージ、パンなどが押し込まれているはずである。

そのくせ、飼われていたカラスは死ぬほどヘタレである。大概は飼い主にべったりで、知らない人間にはひどく人見知りする。この連載の私のプロフィール写真は、とある研究機関で飼育されていたカラスを腕に乗せているのだが、これほど人見知りしない「手乗りガラス」は珍しいのである。このカラス(若いオスだった)は研究にはあまり協力的でなかったそうだが、「広報宣伝部長」として大いに役に立っていたらしい。この写真を撮ってもらっている間も、私の肩に乗っかって機嫌よく髪をひっぱっていた。胸を撫でようとしたらカプッと噛まれた。甘噛みだったので大丈夫だろうと思い、もう一回触っていたら、足をヒョイと上げて私の指をガキッと掴み、それからガジガジ噛まれた。案内してくれた人に「そろそろ本気ですよ」と言われたので、さすがにもうやめておいた。だが、これは本当に例外である。他のカラスたちは見知らぬ人間が近づくと「知らない奴が来たー!」と大騒ぎしたから間違いない。何かあると飼い主の影に隠れて、顔だけ出して見ていたりする。

前述の女王様がイタズラしたカラスをベランダに放り出して窓を閉めたところ、もうパニックを起こして「ごめんなさいごめんなさい入れてください怖いよう」状態だったらしい。以後、カラスが何かやらかすとベランダの方を指差して「出すよ?」とひと睨みするだけでシュンとしていた、とのこと。こういう飼育個体にとって部屋の外は全く見知らぬ異界であり、「広い世界に羽ばたいて行こう」などとは思わないらしいのである。別の知り合いの、半ば放し飼いしていた例でも、庭から外へ出てしまっても塀のすぐ外でうずくまってプルプル震えていたりして、即刻連れ戻せたらしい。

もっとも、時には二度と戻らないこともある。自発的に自立したのか、パニくって飛び回るうちに帰れなくなってしまったのか、それはわからない。

 

現在、アフリカ産のムナジロガラスが輸入されてペットショップで売られていることがある。ただ、売っているからとホイホイ飼育してよいものかどうかは、よく考えてほしい。カラスを飼うのはここに書いたように大ごとだし、おまけに大型のカラスなら40年以上も生きることがあるのだ。今、私がカラスを飼いだしたとすると、少なからぬ確率で私の方が先に死ぬ。あと、そのムナジロガラスがどういう経緯でそこにいるのかも、ちょっと考えてほしい。まっとうな方法であれば良いが、ペット「市場」がどれほど悪辣になれるものか、パピーミル(子犬工場)などを考えればわかるだろう。申し訳ないが、私はそこまで人間のやる事を信用していない。実際、何年か前に台湾でハシブトガラスの雛の密猟が摘発されたことがある。台湾の知り合いによると、おそらくペット用だろう、とのことだった。

動物を飼うことが悪いとは言わない。しかし、そこに金が絡んだ瞬間、物陰に悪魔が蠢いているのは、よくあることだ。

 

そして最後に、飼っていたカラスが死んでしまった場合。カラスロスは大変重症であるらしい。それはそうだろう。手のかかるヤンチャないたずらっ子、そのくせ何かあるとすぐ逃げてくるヘタレ、そして「ねえねえ頭かいて」と甘えてくる子が、突然いなくなるのだ。

だから、うっかりカラスを飼ってはいけないのである。

Born to be wild

次回につづく