2004年、『心脳問題』(朝日出版社)というユニークな本で一躍注目された山本貴光さんと吉川浩満さん。共著・共訳とともにWeb「哲学の劇場」を主宰するお二人です。2005年夏号「『心と脳』をおさらいする」特集で全体の見取り図と用語解説をお願いしたご縁で、その後も、ブックガイドや寄稿、翻訳、特集監修や対談の司会など、「考える人」はたびたびお世話になってきました。山本さんと吉川さんは、科学、哲学、文学、芸術とそれぞれが少し異なった専門分野をもち、一人でも大変な読書量なのに、合体してほぼどんな分野でもカバーできる博覧強記ぶりに私たちは舌をまくしかありませんでした。
あれから10年めの2014年秋、『理不尽な進化』(吉川浩満、朝日出版社)、『文体の科学』(山本貴光、新潮社)とあいついで上梓された本は、ふたたび大きな話題となったのです。その刊行を記念して、今年2月10日、リブロ池袋本店の主催でトークイベントが行われました。題して「いかに探し、読み、書くか?――ネット時代の〈本〉との付き合い方」。
本の達人の秘儀が明かされるとあって、本の仕事に携わる人をふくむ読者が訪れ、70人の定員を超える盛況となりました。

お二人が自己紹介をかねて語る「本との出会い」、大学時代に知りむしろ卒業してから親交を重ねる科学哲学史家・赤木昭夫先生との、ギリシャ哲学者の「饗宴」のような学びの場。
そして「本」というものが古代から現代まで、人間にとっていかなる存在であったかという大きな視点――聞き逃せない面白いエピソードが惜しげもなく繰り出され、一心にメモをとる聴衆も数多くいました。

探すことについて

興味深かったのは、それぞれちがう方法をとりながら、お二人ともに本を「探す」とき、あえて当座の必要の範囲外に及ぶようなしかけをつくっていること。
山本「(ブックガイドの)テーマを念頭に置いて自室の書棚を眺めます。最初に見るのは岩波文庫の棚。……こういう物理環境はとても大事です。かさばる代わりに、常にそこにあり、無意識のうちに刺激されます」
吉川「どんなふうに本の情報を見ているかをご紹介します。基本的に三種類の情報源しか使っていません。一つは自分用の新刊カレンダー。二つ目はRSSフィードを読むというもの。三つ目はツイッターです」
 山本さんは、本号特集「数学の言葉」のブックガイド〈数学の言葉、数学も言葉〉を例にとり、デジタルガジェットに熟達した吉川さんは日常的なその使い方を披露してくれました。
 最終的には自分にとって価値ある本にたどりつくにせよ、未知との遭遇を呼び起こすことで、より刺激を受けることができるというわけです。

読むことについて

読みながら余白に書き込みをする。これには抵抗ある人も少なくないでしょうが、山本さんが古今東西の碩学たちの書き込みを紹介してくれました。
モンテーニュが自著『エセー』に。キューブリックがスティーブン・キングの『シャイニング』に。夏目漱石が『ハムレット』に──。読むことが、批評であり、対話であり、創造性にみちた「本の使いかた」へとつながっていくことを明かしてくれました。
いっぽう、吉川さんはいろんな「読書会」に参加するという、身体的でアクティブな「読みかた」を推薦しています。

「探す、読む、書く」に通底していることですが、ツールによる特性や長短があります。それを工夫し、ためしながら、より濃密で豊かな本との付き合い方を示してもらえた2時間でした。「読書の実力」を培うために必読の対談、ぜひ本誌を御手に取ってみてください。