夏号特集では、終戦直後の総腹ペコ状態から飽食の現代までの戦後70年を俯瞰しつつ、「食べる」ことの本質を考えました。まず、その70年の食の歩みを年表とともに振り返ってくれたのは、フードジャーナリストの畑中三応子さん。コメの消費が減ったとはいえ、麺やパン、はてはドーナツにまで、「もちもち」したコメの食感を求める日本人の心の底にある“コメ愛”を看破する評論を書いてくださいました。
 戦後に育った中高年世代の食の履歴を端的に語ったのは、斎藤美奈子さん、関川夏央さんとともに鼎談をしてくださった山口文憲さんです。

「いまの五十代、六十代は、子供時代を過ごしたあの高度成長期以来、これでもかこれでもかと、ほとんど暴力的にそのときどきの新しい味を教え込まれてきているからね。味覚のメモリーがつぎつぎに『上書き』された結果、いつも『いま食べたいもの、飲みたいもの』しか思いつけなくなっているのかもしれない」
 たしかに、続々と登場する外国料理や珍しい食材に慣れるうち、「ごちそう」に心弾ませる気持ちは少し遠くなりました。

 一方で「ごちそう」は、実は身近なところにあることに気づいている人もたくさんいます。普段は主夫として台所をあずかる作家の佐川光晴さんが「栄養源だったもの」としてあげるのは、「おにぎり」。
「ほかの料理は自分で作ったほうが明らかにおいしいのに、おむすびばかりは妻が作るほうがおいしいのはなぜなのだろう」
 岡山県の山村に移住した東京生まれの水柿大地さん(二十六歳)の食卓に並ぶのは、自ら耕した棚田の米や向いのおばあちゃんが漬けてくれたらっきょなど、「彼ら自身か、集落の誰かが額に汗し、山で捕獲し、そこに供された」文字通りの“ご馳走”。
 高校生の息子に3年間お弁当を作り続けた記録が話題になったミュージシャンの渡辺俊美さんが、「最後の晩餐」に食べたいのは、祖母や母手作りの葉山葵の醤油漬け。原発事故の影響で故郷福島での山菜狩りは封印していますが、いつか息子に「故郷の土」を食べさせたいと願っています。
 食べ物は、とても切なく人の心に残るもの――岩手県遠野でチーズを手作りする荘司こずえさんは語ります。

 この他、フードスタイリスト飯島奈美さんが教えてくれた「心があったかくなる料理」(レシピ付き)、平松洋子さんが石牟礼道子さんに聞いた「食べごしらえ おままごと」、漫画「クッキングパパ」作者のうえやまとちさんが語る思い出の食べ物などなど、盛りだくさんなメニューをどうぞお楽しみください。