夏号から始まった、池澤夏樹さんの新連載「科学する心」。大学で物理学を学ばれた池澤さんは、ずっと理系の分野に強い関心を抱き続けています。そんな〈アマチュアの科学ファン〉がここ10数年間読んできた科学の本などから気になるトピックを取り上げ、〈抽象と具体の中間を行く散漫な思索を試みる〉、やさしい科学入門エッセイです。

タイトルの「科学する心」という言葉を考案したのは、生理学者の橋田邦彦という人物です。昭和15(1940)年、第二次近衛内閣の文部大臣に就任し、昭和18年に退任しています。「この人物はきっと昭和天皇にも会っているに違いない」。

そこから池澤さんの思考は〈科学者としての昭和天皇〉に移り、〈彼こそは「科学する心」の体現者だったのではないか〉といいます。

昭和天皇が生物に強い関心を持っていたことは広く知られていますが、単なる趣味にとどまらず、一科学者としても非常にすぐれた業績を残しています。

幼少時から生物に強い関心を抱いていた昭和天皇の一生を、科学者という観点で考察していく池澤さんは、資料を読み頭の中で考えるだけでなく、今年(2015年)の4月29日、昭和の日に、昭和天皇が熱心に研究したウミウシを見に神奈川県・雨崎まで出かけたそうです。

「科学」と聞いて身構えてしまう方も多いかもしれませんが、池澤さんの筆は、時代を、そして分野を自由自在に越えていきます。読み進むうちに、私たちはいつのまにかその軽やかな流れに身をまかせて、心地の良い知的探求の旅に出かけているのです。