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テレビ番組での紹介をきっかけに、ソマリの覚醒植物「カート」に注目が集まりました。敬虔なムスリムであるソマリ人は飲酒せず、でも日常的にカートを食べるそうです。2016年7月掲載の記事が第1位となりました。
インフルエンザで一家半滅の村井家。普段と違う緊張感の中、些細な言い争いから次男が家を飛び出してしまい…。共感の涙とともに読んだという声も多数寄せられた日記が今週もランク入り。
文芸誌「新潮」副編集長で橋本さんの長年の担当編集者でもあった本サイト編集長が、数多くの作品の中から10作品を選んで紹介します。こちらはその前篇です。……。
編集長 今週のメルマガ
 
入江敦彦さんが、大いに影響を受けたという橋本治への追悼文を書いてくれました。連載「御つくりおき」の番外編「ドナウ川が青く見えるのは恋をしている人だけ」として配信中。入江さんにとって、橋本さんの書いた書物がいかに大切な存在なのかが伝わってきます。

また3月7日発売の「新潮」4月号では、高橋源一郎さんと松家仁之さんに追悼文をお願いしました。

入江さんは「出会いはマンガを文学として読み解いた評論集『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』」だったと書かれていますが、高橋源一郎さんが小説を書こうとしたときに勇気づけられたのもこの本だったそうです。偶然の一致というより、橋本さんがデビュー作『桃尻娘』のすぐ後に書いたこの少女マンガ論、なかでも大島弓子論「ハッピィエンドの女王」が、当時いかに文学を自由でリアルなものにし、のちの書き手を勇気づけた革新的な書物だったかがわかります。

松家さんの追悼文「如是我聞」は、橋本さんの妹と、橋本さんの長年の親しい女性の友人の二人のモノローグから、生身の橋本治さんの存在を浮かび上がらせようとする一風変わった書き方のもの。『光の犬』の著者である松家さんが、大好きな橋本さんをいかに追悼するか、考えに考えた書き方だったと思います。

先週に引き続き、私も橋本治さんの本を紹介したいと思います。膨大な著作より、現在入手困難なものも含めて10作品を選んでみました。今週は5位から1位までです(10位から6位については先週のメールマガジン807号をご覧ください)。

5位 『二十世紀
以前のメルマガでも紹介した『89』は、昭和から平成への区切りを、半ば強引に意味のあるものとして読み解く、橋本さんならではの時代論だった。橋本さんが亡くなったときに、ラッパーの宇多丸さんもこの本の思い出についてラジオで語っていた。そのあとに、橋本さんは90年代の指南書『ナインティーズ』を書き、さらには20世紀を一年区切りでスケッチする『二十世紀』を書く。どれも怪物的な大きな仕事だが、ここでは『二十世紀』を挙げておく。

4位 『巡礼
やたら長い超長篇小説か短篇小説しか書かなかった橋本さんに、文芸誌での一挙掲載が可能な300枚ぐらいのサイズの小説をお願いして生まれた小説。「そのくらいの枚数のものは書いてませんよね」と聞いたら、「バレたか」と言われた。サイズとスタイルが内容を規定し、その後の橋本さんの小説の流れを作った、とも言えるだろうか。ゴミ屋敷に孤独に暮らす男の半生を描くことで、昭和から平成にかけての時代が浮かび上がる。電話で、冒頭の視覚的な描写について楽しそうに語る橋本さんの声を聞いて、やっぱり小説を書くのが一番楽しそうだな、お願いしてよかった、とつくづく思った。きっと絵を描いたり、カメラで映画を撮ったりしているような気持ちだったのだろう。

3位 『権力の日本人
『双調 平家物語』の副産物として生まれた、奈良・平安時代の権力構造の変遷を追った歴史エッセイ。毎章、年表と系図がつけられていて、その書かれ方が強い批評性を帯びている。一昨年、大塚ひかりさんの『女系図でみる驚きの日本史』が話題になったが(こちらもオリジナルの発見に満ちていて、橋本さんの本とはまた違う面白い本です。当サイトでも中村うさぎさんとの対談を掲載しました)、そういう、女系図から見ると権力構造がひっくりかえる面白さや、男女の関係が夫婦であるとともに、親戚であるような複雑な人間関係、さらに男性同士の恋愛関係から見える系図の見え方の変化をこの本ではじめて理解した。続篇の『院政の日本人』は主に後白河法皇の権力基盤の保ち方に焦点が当てられ、こちらもすごい。

2位 『双調 平家物語
文庫で11巻ある壮大な小説。『窯変源氏物語』より私はこちらのほうが好きだ。『平家物語』の橋本流翻案なのかな、となんとなく思っている未読の読者も多いだろうが、読むと全然違っていて、平家物語のスタートのかなり前、大化の改新あたりからの日本の権力構造の変遷のロジックが緻密に語られる(もっと言えば、平家物語の冒頭に出てくる、本朝が範とした中国の叛臣伝から始まる)。組織がいかに誰の意志でもない方向に変遷していくかが書かれる。特に奈良時代のあたりの権力基盤の不安定さに驚く。一時期、この本にはまりすぎて、ほかの仕事をしていても夢うつつの状態だった。

1位 『ひらがな日本美術史
芸術新潮」で14年間にわたりずっと連載していた全7冊の美術史。単なる通史というより、毎回橋本さんが編年的に、美しいもの、時代を変えたものを選び、その119もの作品の美しさを解読する。既成の批評言語をつかわず、また歴史的に評価されているすごいものだという思い込みを一回外して、メモリをゼロに戻してから、改めて美術品の良さを読み解くタッチが素晴らしい。美術にふれあい、それに自分なりの価値を重ねることが楽しくなる本だ。個人的には、安土桃山時代から江戸時代のあたりの3、4、5、6巻が特に好き。完結後、「新潮」に浅田彰さんとの対談を掲載したのもいい思い出である。
 
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