餅米をまぶしたあん入り餅は、いがもち、けいらんなどと名前を変えて各地に分布し、輪島ではえがらまんじゅうと呼びます。これも五色生菓子のひとつで「山」のいが栗または光る岩を表すとも。にぎにぎしい祝い菓子です。

 

残雪の低山でミスミソウが顔を出す頃、町ではフキノトウが咲いていました。春先の山菜として食べるのはつぼみですが、開いた花も趣があります。町の片隅の地面にフキノトウがひっそり咲くなんてうらやましい。

 

和菓子屋には春のお菓子が並んでいます。うぐいす餅、花見だんご、桜餅。輪島にちなむ代表銘菓も。桜餅は小麦粉の薄焼であんをくるんだ関東風の長命寺。地元の和菓子屋には季節と歴史の積み重ねがあります。

 

見上げると厚い雨雲の下、黒い屋根瓦の上を、白い鳥が群れをなして飛んでいくところでした。比較的大きく、首が長いので白鳥ではないかしらん。こうして気づかないところで、刻々と着実に動いていく自然。

 

味醂干しをぶら下げ、魚を捌く屋台の魚屋も見かけます。いつも同じ場所に停め、常連客を待つのでしょう。私が育った町でも幼い頃はまだ荷台を引いて魚を売るおじさんがいて、来るといつも母が買っていました。

 

『中浦屋』の丸柚餅子は中をくりぬいた柚子皮に餅たねを詰め、蒸しては乾燥させて半年熟成させたもの。竹へらで皮が透けるほど薄くくりぬく作業は町の人たちも担い、口の部分が難しいそう。もはやお菓子を超えた芸術の域。

 

高い松の木々に静かに守られた、平安中期創建と伝わる重神社の鳥居前で聞こえるのは水の音。温泉が引かれていて飲用の柄杓も置かれていました。寒い日なので白い湯気がたち、口に含むと温かくそしてやわらかい。

 

雨が上がる頃、輪島を後にしました。田んぼには降った雨が溜まり、曇り空を寒々と映しています。けれどももうじきに水はぬるみ、緑が萌え出て、花が咲き、のどかな春景色になるんだろうな。

 

閉店のため売り尽くしの輪島塗の店で買ったのは、塗師のご主人が手すさびに作ったという、もとは手元の漆入れだった小桶。我が家では食後のおやつ入れとして、手を入れるたび、ぽってりとした漆の感触も味わう毎日。