前回に引き続き、サンスクリット語の魅力をお伝えしたいと思います。今回は文法について、少し詳しく見てみましょう。

日本語の母音と似ている!サンスクリット語の母音

 サンスクリット語の母音は、以下の13個あります。

aア、āアー、iイ、īイー、uウ、ūウー、
ṛリ、ṝリー、ḷリ、
eエー、aiアイ、oオー、auアウ

 日本語の「アイウエオ」と似ています。アイウエオのそれぞれに、短母音と長母音あるいは二重母音があり、ウーとエーの間にリ、リー、リ、という変わった母音が入っていると考えていただければと思います。
 「ṛリ」が母音、というのは驚かれるかもしれません。子音のrに母音的機能が置かれたものと説明されます。インド最古の宗教文献を『リグ・ヴェーダ』Ṛg Vedaといいますが、この最初の音の「リ」は母音ということになります。他に、インド神話によく出てくる「聖仙」と訳される「リシ」ṛṣiも、最初の音は同じ母音の「リ」です。

 母音のeは、サンスクリット語では常に長母音です。エーと伸ばします。ですので、『バーフバリ』の主人公の名前は、サンスクリット語としては、「アマレンドラ」というよりは「アマレーンドラ」、「マヘンドラ」は「マヘーンドラ」と、eを伸ばします。
 母音のoも同じように常に長母音です。

サンスクリット語のアルファベット。デーヴァナーガリー文字(AKV/ShutterStock)

 

単語の意味が、母音の変化とともに変わる!「グラデーション」

 サンスクリット語の音韻変化の規則に、「グラデーション」(階次)というものがあります。母音が規則的に変化します。
 たとえば有名な神話上の人名ですが、「ヴァスデーヴァ」という人物がいて、この息子のことを指すときに「ヴァスデーヴァの子」という意味で、最初の「ヴァ」の母音を長母音にして「ヴァースデーヴァ」といいます。最初の母音の「階次」を上げる、つまりここではアをアーにして、「そのものに由来する」などの意味になります。ヴァスデーヴァの子ヴァースデーヴァ、すなわちクリシュナのことです。
 他の例としては、ゲームに出てくる武器の名前に、「パーシュパタ」というものがあります。ゲームのFGOでは、アルジュナの必殺の武器として出てきますね。この「パーシュパタ」は、「パシュパティに由来する」という意味です。「パシュパティ」の最初の母音が長母音となって「パーシュパタ」になります。パシュパティとは「獣たちの主」という意味で、シヴァ神のことです。従って「パーシュパタ」という武器は、「シヴァの」武器、ということになります。
 また、女神の「パールヴァティー」。シヴァ神の妃です。この名前は「パルヴァタ」から来ています。「山」を意味する「パルヴァタ」の最初の母音を長母音にして「山に由来する」という意味にし、最後の母音をイの長母音に変えることで、後述しますが、女性であることを表します。「パールヴァティー」とは「山の娘」という意味なのです。

 別の例です。先ほど「リ」の母音のところで例に挙げた『リグ・ヴェーダ』ですが、この『ヴェーダ』という言葉の語源はヴィドゥvidで、「知る」という意味の動詞です。ヴィドゥの最初の母音の階次をイからエーに上げてヴェーダ、となります。「知識」という意味です。イ→エーという変化です。
 イがアイに変わる例もあります。「シヴァ」の最初の母音のイをアイにして「シャイヴァ」という単語を作ることができます。これは、「シヴァ神に由来する」や、「シヴァ派」という意味になります。

 次に、ウからアウへの例を見てみましょう。『マハーバーラタ』の主役の五王子の母をクンティーといいます。厳密にいうと、パーンダヴァ五兄弟の上の三人の母です。このクンティーの最初のウをアウにしてカウンテーヤという単語が作られます。カウンテーヤで、「クンティーの息子たち」の意味になり、五兄弟の上の三人のことを指します。

 一見分かりにくい変化ですが、リがアールになるというものもあります。すばる星のことをサンスクリット語で「クリッティカー」といいます。この最初の「クリ」の「リ」が母音のリです。これの階次を上げて「アール」にすると、「カールッティケーヤ」となります。クリッティカーたちに養われた息子の名、軍神スカンダの別名です。なお、日本には仏教と共に入ってきて、韋駄天と呼ばれています。

音がくっついて変化する!「サンディ」(連声)(れんじょう)

 サンスクリット語の母音に、「連声」という規則があります。まずは具体例として、再び『バーフバリ』からですが、「アマレンドラ」は分解すると、アマラ+インドラとなります。「アマラ」で「不死の」、「インドラ」は神々の王の名です。アマラの最後の母音と、インドラの最初の母音がくっついて、変化を起こします。つまり、a+i=eという変化です。このような変化を「サンディ」あるいは「連声」といいます。これにしたがい変化した結果、「アマレーンドラ」となるわけです。「マヘンドラ」も同じです。「マハー」が「偉大な」という意味でこれがインドラとくっついて、ā+i=eという法則にしたがい、「マヘーンドラ」となります。
 ゲームの中にも、ちょうどいい例があります。FGOなどで強力な呪文として出てくる「ブラフマーストラ」。これは、ブラフマとアストラがつながったもので、「ブラフマー神の武器」という意味です。
 神話にもゲームにも頻出する単語のアストラ、これが面白いのですが、サンスクリット・イングリッシュ辞書には、「missile」とでてくるのです。ミサイル?古代インドの?と思うかもしれませんが、ミサイルには「飛び道具」の意味もあって、ここでは魔術的な飛び道具を意味します。けっして、古代インドにミサイルや核兵器があったわけではないのです。音韻法則としては、a+a=āです。

性・数・格をおさえよ!名詞の変化

 サンスクリット語の名詞、代名詞、形容詞には、性・数・格の区別があります。
 「性」としては、フランス語のように男性形、女性形があり、そのほかに中性形というのもあります。生物は原則的に自然の性別にしたがい区別されますが、文法上必ずしも論理的でないこともあります。たとえば「牝牛」は「デーヌ dhenu」と言い、女性名詞です。牝牛だから女性名詞。これはわかりやすい例です。
 論理的でない例としては、男性名詞の「火」の「アグニagni」があります。インドでは火は男性と考えられていて、火の神格化されたアグニ神は男神です。同じインド=ヨーロッパ語族でも、ギリシャの火の神が女神・ヘスティアであることと対照的です。
 他に論理的でない例として女性名詞を挙げますと、「川」の「ナディー nadī」、「思慮」の「ディー dhī」、「声」の「ヴァーチュ vāc」などがあります。中性名詞としては、「果実」の「パラ phala」、「心」の「マナス manas」、「供物」の「ハヴィス havis」などがあります。これらの性別の区分に何か法則を見出そうとしても徒労に終わるだけですので、「そういうもの」として受け止めるしかありません。
 語尾の傾向としては、男性名詞は基本的に短母音が多く、女性名詞は長母音が多いです。『バーフバリ』の女主人公デーヴァセーナは、サンスクリット語として正しくはデーヴァセーナーと長母音になります。同名の女神が神話にもでてきます。シヴァ神の息子スカンダの妻の名です。名前の意味はデーヴァで「神」、セーナーで「軍隊」なので、「神々の軍隊」。勇ましい名前ですね。

 「数」は英語のように単数と複数、そしてサンスクリット語では「二つのもの」を表す両数形があります。両数というと、今わたしが注目しているのが、『マハーバーラタ』に登場する英雄たちに使われる両数形です。親しい間柄にある二人を指すときにこの形が使われます。ヴィシュヌの化身であるクリシュナと、その親友で『マハーバーラタ』随一の英雄であるアルジュナの二人を指して「クリシュナウKṛṣṇau」と言うのですが、この語は「二人のクリシュナ」という意味の両数形になっています。語末の「アウ」が両数形の指標の一つです。「二人のクリシュナ」と言えばアルジュナとクリシュナのことと分かる、というくらい不可分の「一対」であることが、この一語で表現されるわけです。
『マハーバーラタ』の敵方では、太陽神の息子カルナとその親友で悪の化身であるドゥルヨーダナも両数形で表されます。クリシュナとアルジュナの一対と、好対照をなしています。

 最後に、名詞の「性・数・格」の三つ目、格変化について簡単に見ておきましょう。格変化というのは、名詞や形容詞が文中の他の単語との関係によって形、特に語尾を変えることをいいます。ドイツ語にも四つの格変化がありますが、サンスクリット語では八つもあります。
 その八つというのは、主語・述語を表す「主格」、主に動詞の目的語となる「目的格」、道具や手段などを表す「具格」、間接目的語となる「与格」、原因・理由などを表す「奪格」、所属や所有を表す「属格」、場所を表す「所格」、そして呼びかけの時に使う「呼格」があります。それぞれに語尾が異なります。語尾によってどの格か分かる、つまりその単語の文中での役割が分かるので、サンスクリット語では語順の規則がほとんどありません。語順によって語の役割が決まる英語などとは対照的です。