つる壽 
住所:港区虎ノ門1-5-3
電話:03(3508)9450

 関西割烹の粋を伝える東京・虎ノ門「つる壽」。大阪の名料亭「つる家」での修行を経て、若き柿澤津八百さんがこの地に店を構えてから四十年。円熟の境地に達してなお、日々研鑚に励むご主人に、日本料理の奥深さ、四季折々の旬の味を引き出すその奥義を語っていただこうという連載が、〈「つる壽」味がたり〉です。
 第一回のお話は「お弁当」。つる壽のお弁当は、知る人ぞ知る名物として、食いしん坊たちの圧倒的な支持を得ています。「味も心構えも、すべてが現われてしまう折詰は、店の柱ともいうべきものなのです」とおっしゃるご主人のお弁当ばなし、その冒頭をすこしだけご紹介しましょう。 


 ちょっと小さいな、とお思いになるかもしれませんね。でも、召し上がってみるとけっこう量があるんです。中に入っているものを出してみると、こんなふうに大きなお皿いっぱいに広がる。品数は十五品くらいです。十三種類だとちょっと寂しい。十七種類だと、多すぎてだめなの。十四か十五、それも十五だとぴたっとおさまる。(中略)
 お弁当は助け船がないんですよ。正味で勝負しなくちゃならない。館(やかた=店)では、ちょっとうつわが大きいな、と思えば花だの枝だのあしらえばすぐ形にもなるのですが。
 つまりそのぶん、折詰の大きさや深さが大変重要なんです。この折詰は昔からずっと使っているものです。杉が一番いい。盛りやすいというか、落ち着くというか。檜など匂いの強いものは使えませんしね。そして、折の大きさに従って縁の厚さも変わる。深さと厚さのバランスが大事なんです。(中略)
 ここへ、どんなふうに詰めるか。最初にきっちりイメージができていなければ、もう絶対うまいこといきません。詰め終えてから、あ、これとこれ盛り替えよう、なんていうのもいけない。いじるとだめなのよね、不思議と。自分の頭の中に、あらかじめきちんと絵が描けていないと思いどおりの仕上がりには詰められないです。(中略)
 お弁当はね、見えないところで召し上がるでしょう。どこで、どなたと、どんなふうに召し上がるかまったく条件がわからない。横について手助けしてあげることさえできない。だからこそ、どんな条件で召し上がっても、「ああ、おいしかった」とおっしゃっていただかないことにはね。



 以下、お弁当ならではのだし汁の引きかた、味つけのメリハリと彩り、お弁当に向く料理と向かない料理、土台となるお米のこと……などなどが、惜しみなく明かされます。読み終えるころ、読者のみなさまは、つる壽のお弁当を口にしないことにはもうおさまらない、と身もだえなさっているかもしれません(罪つくりな頁ですね)。
 第二回目以降も、椀もの、おせち料理など、これぞというテーマでお話をうかがってゆきますので、どうぞおたのしみに。聞き手は、食文化ジャーナリストの平松洋子さんです。