「考える人」のカラーページを毎号飾っていく予定の自然写真家の星野道夫さんが、生前ときおり口にしていた言葉があります。
 Life is what happens to you while you are making other plans.
(人生とは、何かを計画している時起きてしまう別の出来事のこと)

 東京生まれ東京育ちの玉村豊男さんが、都会を離れ軽井沢に家を建てたのは1983年、玉村さんが38歳のときでした。そして厄年での大病をきっかけに、余生を送る地として長野県東部町に大きな農園をかまえ、新しい生活をスタートしたのが1991年のことになります(この間の詳しいいきさつは、小社刊行の『種まく人』に書かれています)。

『種まく人』のなかには、こんな一節があります。
「軽井沢の土地を売り、もっと遠くの辺鄙なところに畑を求めれば、それほど働かなくてもなんとか食べていけるのではないか。私は、ときどき注文があれば原稿を書き、なければ好きな絵を描いて、人生からなかば撤退して“隠遁”しようと本気で思うようになっていたのである」

 そんな思いを抱いて東部町に移り十年以上の時間が経過しました。やはり小社刊行の続編『草刈る人』には、昨年までの農園の暮しが報告されています。

 しかし、「人生とは、何かを計画している時起きてしまう別の出来事のこと」です。そもそもは世の中の煩わしさから逃れて、自然の奥深くへと隠遁したいという意図のあった本格的な農園暮しは、野菜やハーブの出荷からワイン用のブドウ畑の拡張化へと規模が次第に大きくなっていきます。玉村さんの農園では、現在何人もの人々が働くようになりました。そしてさらには、ある不測の事態に導かれて、約二千坪の土地を買い足して、レストランの付属するワイナリーを設立するという「大事業」へと転換し始めたのです。

 今回の原稿では、ワイナリーをつくるにはどれぐらいのコストがかかるものなのかが具体的な検証のなかで明らかにされます。そしてそれは、普通だったら、「これは計算が合わない。やめよう」と決断せざるを得ないもの。しかし……玉村さんは何かに憑かれたように、ワイナリー計画の具体化へと突き進んでゆきます。軽井沢での暮しをはじめた38歳の玉村さんは今年57歳。大病を得た厄年の頃には考えられなかった事態が現在進行中です。
 この「無謀な」計画の一部始終を伝えるスリリングな連載「農園主としてのわが人生」に、これから起きてくるはずの「別の出来事」を、ほぼ同時進行で共有(のぞき見?)するのもまた面白い(ちょっとコワイ?)のではないでしょうか。