「考える人」の連載「すまいの流儀」の書き手である建築家・中村好文氏は、その家具デザインの仕事でも近年ますます評価が高まっています。これは私の偏見かもしれませんが、建築家のデザインする家具、となると、「見た目」は惹くものの実際の「使い心地」はそれほどでもない、そんなイメージがあります。

 しかし、中村氏のデザインした椅子、テーブル、チェストなどは、「見た目」も「使い心地」もどちらも充分満足させるものです。それは、古今東西の家具に知悉した中村氏の家具への愛情はもちろん、武蔵野美術大学を卒業後に木工の職業訓練所に入り自らも技術を修得したという経験、さらに師匠である建築家・吉村順三氏の事務所で、家具製作の担当として様々な薫陶を受けたことなど、優れた「家具デザイナー」になる素地を幾重にも積み上げてきたからではないかと思います(「芸術新潮」九月号所載の中村氏の連載「意中の建築」には、吉村氏らとの協同デザインの椅子について興味深い話が書かれています。ご一読をお勧めしたいと思います)。

 中村氏デザインの家具は何人かの家具職人によって受注製作され、ひとつひとつ形になります。その職人の一人が、長野県の安曇野に在住する横山浩司氏です。連載「考える手」の第二回は、この横山浩司氏の仕事を取材しました。

 今回、横山氏が中村氏から依頼された仕事は、桐の押入れ箪笥でした。中村氏のクライアントの家で、押入れの上段と下段に収納する箪笥です。この箪笥のいちばんのポイントは、奥行き95㎝のなかに、抽出しが手前と奥の二重になっていることです。それでは、奥の抽出しはどうやって手前まで引き出すのでしょうか? 中村氏のアイディアによる仕掛けを見事に具体化させる横山氏の匠の技を写真で紹介し、本文では、横山氏が家具職人にいたる道のり──多摩美術大学のプロダクトデザイン科を中退し、志願して入った松本民芸家具での五年に及ぶ寮生活と家具職人としての厳しい修業の物語──をたっぷりとご紹介します。どうぞお楽しみに。