器好きの間でつとに人気の高い、三谷龍二さんの「木の器」。見た人はまずその造形に、使った人は深まる風合いにかならずほれ込んでしまいます。松本郊外の山腹に工房を構え、生活のための美しい道具と彫像作品をつくる木の造形作家の春夏秋冬、折々の暮らしと仕事を伝える新連載です。第1回は、住まいの話から──。

 三谷さんの住まいmitani hutは、友人の建築家・中村好文さんによる設計です。物置小屋を改造した、わずか8坪、「人ひとりが生活できる最小限の大きさ」の家。9年暮らして床板や漆喰の壁には風合いが出たけれど、しつらえは潔いまでに簡素なまま。ものをつくりだすために、あえて選び取った空間なのでしょうか? 無駄なものは何もなく、それがなんとも心地いいのです。

「考える手」はさまざまな工房を探訪し、人の手によって生み出される名品をつくり手とともに紹介する企画(今号ではお休み)ですが、三谷さんこそ、まさにこの「考える手」の持ち主。エッセイのなかでこう書いています。
「陶芸家は土。木工家は木。染め織りの人は糸。ものづくりの人たちは、素材や道具など具体的なものに手を触れながら、それぞれの考え方をつくり上げていきます。ものをつくる人たちは、どちらかといえば、頭でなく、手でものを考える人たちなのです」

 手に触れるものは、作品の素材や道具だけとはかぎりません。
 一本の丸太を選ぶところから幾多の工程を経て、作品が仕上がるまでには何年もかかります。自然の素材を相手にすると、仕事の仕方も生活のリズムも、風土や季節や時間の経過、ダイナミックな自然の流れに組み込まれるのです。
 短い夏は戸外での昼食を楽しみ、長い冬はストーブの傍で彫像を刻む。生活と仕事がいきいきと響きあう様子が、これから1年、四季を通じて描かれていく予定です。

 さて、三谷さんは木の器を買った人から扱い方の質問をよく受けるそうです。木のものは、まずよく使うことが一番の手入れ。さらに簡単な手入れ法を伝授していただきました。日本の家から無垢の木が姿を消し、残念ながら木とつきあう経験も失われつつあります。小さな工房の営みが、繕いながらものを使い込む楽しみ、木とつきあう智恵、かつての私たちの暮らしの文化を、もう一度思い起こさせてくれるかもしれません。

「葡萄棚の下の昼食」と、「木の器とつきあう」は三谷さん自身の筆による、実感に裏打ちされた好エッセイです。表情ゆたかな器たち、夏のひとときの幸福感ただよう写真とあわせて、お楽しみください。