イタリアで始まった「スローフード」運動をいち早く日本に紹介したのが島村菜津さんです。その原点となった島村さんの著書『スローフードな人生!―イタリアの食卓から始まる―』は今も版を重ね続けています。「スローフード運動とはいったい何か?」から始まって、はや三年が経ちました。日本でもその実体や意味合いが浸透しつつあるのではないかと思います。

 イタリアで始まったからといって、「スローフード」はもちろんイタリアだけにあるわけではありません。それはどこにいても、いつからでも始められるもの。そして、「スローフード」は、食べ物の作り方や食べ方だけの問題ではなく、その人の生き方さえ変えるかもしれないもの……それが「スローフード」の奥行きの深さだと思います。

「にっぽんをスローにする」では、島村さんが日本の各地を旅しながら、日本にもある、地に足のついた「スローフード」的なるものを訪ねています。そして、それは食べ物の話であっても、やはり人生の話でもあり、生き方の話かと思えば、いつしか政治や経済の話にまで及び……「食」と「人生」とのあざなえる縄は、どこまでもするすると伸びていきます。

「会うべき人には必ず出会ってしまう」様子を見ていると、島村さんのノンフィクション作家としての嗅覚の鋭さがよくわかります。今回もまた、沖縄を旅しながら、スローな沖縄料理の懐の深さを見せてくれる魅力的な人物に出会っています。

 その人が津嘉山千代さん。津嘉山さんが経営する宮古島の「津嘉山荘」に宿泊する島村さんの前に並んだ夕食は……シソの食前酒をいれれば十二種類。豚の角煮ラフテー、パパイヤの炒め物、海ぶどう、ニガナのおひたし、紅芋の練り物、ゴーヤーの卵とじ、島らっきょう、アロエのおつくり、茄子の挽肉詰めの揚げもの、小豆ごはん、アーサー汁。

「沖縄の食」の魅力には、やはり沖縄の歴史の重みが見え隠れします。『聞き書 沖縄の食事』の著者の一人、与那覇ハルさんからは、島村さんはこんな言葉を引き出します。

「沖縄は死んだ人をとても大切にするの。本土みたいに仏壇、家の隅っこに追いやらないのよ」
「ご先祖様を口実に何度でも集まって食べるのよね」

「にっぽんをスローにする」の次号掲載分では、いま日本ばかりではなく、東南アジア全体にも波及し始めた「合鴨農法」について精力的に取材したものをお伝えする予定です。どうぞお楽しみに。