島村菜津さんは、ご自身の著作『スローフードな人生!―イタリアの食卓から始まる―』(新潮文庫)によって私たち日本人に逸早くスローフード運動を紹介した書き手です。小誌では創刊号からの連載「にっぽんをスローにする」で、日本およびアジアにおけるスローフード運動とその周辺の現状を、私たちと同じ目の高さで追いかけています。

 長年イタリアに住んでいた島村さんですが、意外なことに今回の特集で取り上げた南イタリアには、これまでほとんど足を踏み入れたことがなかったそうです。しかし……今回はどうしても行ってみたいと島村さんを駆り立てる大きな理由がありました。

 それは、イタリア料理には欠かせないトマト、パスタ、レモン、魚醤を、昔ながらの方法で生産している人々が南イタリアに点在している、と聞きつけたからでした。

 農業も、その技術改良や流通手段によって、いつしか大量生産が当たり前になってしまいました。農業がいわば「工業化」され、安定して安価な食材を手に入れることができるようになる「生産革命」は、まさにグローバルな規模で地球を覆い始めています。遺伝子操作までも取り込んだ私たちの時代の食の環境は、おそるべきスピードでの進化が加速しています。

 しかし私たちは欲張りです。いったんそのように便利さと経済性を獲得すると、今度は多少は手がかかっても、安全でおいしいものが食べたい、という気持ちが頭をもたげてくるのです。──「昔のあのトマトの味はどこへいったんだ」と嘆き始めるのです。

 それならば過去に戻ればいいのか。いえ、そんな単純な問題ではありません。一度は克服すべきもの、改善されるものとしてとらえていた「手間がかかる」「小規模の」農業が、おいそれと復活し成り立つはずもないからです。

 それを乗り越えるのはやはり個人の知恵と情熱なのだ、ということを島村さんのレポートは熱く伝えてくれます。島村さんを唸らせた食材を作る南イタリアの小規模農家の人々は、どんな思いで、少量限定生産の「限界」を乗り越えたのでしょうか? 美味しそうなカラー写真が満載の特集です。