『大正天皇』や『鉄道ひとつばなし』などで知られる明治学院大学教授・原武史氏と、本誌連載「考える人」でおなじみの評論家・坪内祐三氏による、初顔合わせの「駅そば対談」。

 きっかけは、昨年十月一日の品川駅新幹線開通でした。当日の品川駅に足を運んだ原氏は「予想通りまずいことになっていた。JRはホントにひどいことをやる」と、いつもは冷静沈着な氏が珍しく語気を荒げ、新幹線開通による品川駅の駅そば・駅弁環境の変化に対して立腹していたのです。

 氏が腹を立てたのは、つまりこういうことです。品川駅に昔からある駅そば・駅弁屋「常盤軒」が在来線ホームの上、つまり新幹線口から離れたところに追いやられ、新幹線口に近いところは、JR東日本の子会社であるNRE(日本レストランエンタプライズ)とジェイアール東海パッセンジャーズの駅そば・駅弁屋に占められていたことを憂いていたのです。

 その後、この「悲劇」を氏は講談社『本』の連載で書いたようですが、「品川駅に似たようなケースは他にもたくさんある。このままでは『駅そば』が危ない」と、まだまだ駅そばに関して言いたいことは山ほどあるという気配でした。

 そんな話を聞きつけた坪内氏。「私も立ち食いそばにはうるさいですよ。小さい頃から愛用してきたし、今でも散歩の途中によく立ち寄ります。最近も、下高井戸駅近くの市場内にある、おそらく日本一ディープな立ち食いそば屋を見つけたところ」。

 というわけで実現したのが、この対談「失われた『駅そば』を求めて」です。それぞれの駅そば・駅弁幸福体験から、駅そばの持つ豊かな地域性とそれが失われつつあることへの危惧、NREの横暴、駅弁大会の欺瞞まで、「駅そば」をダシに、両者が縦横無尽に語り尽くします。読み終えれば「駅そば」を食べたくなること間違いなしの対談です。