『読んで旅する世界の歴史と文化 北欧』(新潮社)のなかで、村井誠人氏はこんな小話風の逸話を紹介しています。

「船が難破し、北欧各国の男たちがそれぞれ二人ずつ一つの無人島に漂着した。彼らが島から救出されるまでに、デンマーク人は二人で協同組合をつくり、ノルウェー人は釣り舟を造り、フィンランド人は木という木を切り倒し、そしてスウェーデン人は相手から自己紹介されるのを待ちつづけた。またこの話のヴァリエーションとしては、同じ状況下で、デンマーク人はジョークを言いつづけ、ノルウェー人は喧嘩しつづけ、フィンランド人は酒を飲みつづけ、そしてスウェーデン人は、またも相手から自己紹介されるのを待ちつづけた、と」

 村井誠人氏はこう続けます。「右のアネクドートには、農業協同組合や生活協同組合によって大いに成功したデンマーク社会や、尊称の二人称の使い方において、相手の身分や肩書きにこだわったスウェーデンの社会慣習などといった『歴史的』状況が反映されている。そして、ノルウェー人やフィンランド人に対する表現はかなり問題でもあろうが、若干の犠牲的忍耐をその二国民に強いて、北欧では『恒例』となっている賢者スウェーデン人を笑い飛ばそうとする魂胆が働いているものと思われる」

 私たちは北欧と十把一絡げにしてしまいますが、当事者にとっては、一緒にされるなんてとんでもないことなのかもしれません。今回、写真家の今森光彦氏が取材撮影したフィンランドの「里山」の暮らしぶりは、同じ特集のなかに垣間見られるデンマークの暮らしぶりとはだいぶ趣の異なるものです。

 フィンランドは「森と湖の国」。すなわち、北欧のなかでも手つかずの自然が残っている国……という漠然としたイメージが私たちのなかにはあります。しかし今森さんの文章と写真によると、なんとフィンランドの森の九割以上が人々によって手入れされた、いわば「管理された森」だというのです。彼らはこの森を「タロウズ・メッツェ」(経済的林)と呼んでいます。先に紹介した「小話」通り、フィンランド人は実によく木を「切り倒す」人々ですが、もちろん無闇に切り倒すのではない、十年、百年先を見据えた管理がそこにはあるようです。

 日本の里山にも通じる、人と自然を結びつける知恵とは何でしょうか。目にしみるような森や湖の写真とともに、ひんやりとした風の通る国へご案内いたします。