まもなく夏休みも終わります。皆さんはどんな夏休みを過ごされたでしょうか。デンマークの人々にとってこの長い休暇は、何にも代え難い大切な時間です。長く暗い冬のうちからじっくりと計画は練られて、南の国々、たとえばフランス、イタリア、スペイン、ギリシャといった太陽が燦々と降り注ぐ場所に貸別荘を探し当てると、半年前には予約を済ませ、来たるべき夏に備えるのです。

 長期休暇には衣類を初めとする大量の荷物が必要です。したがって移動には自家用車が使われることが多いのです。たとえば今回の特集に登場するモーゲンセンさん一家は、イタリア・トスカーナ地方の貸別荘までの片道約一七〇〇キロを、一泊二日をかけて車で移動します。運転手である旦那さんの言葉、「翌日のうちにはイタリアに着きますから、それほどタフな旅じゃないですよ」。

 デンマークでは別荘を持つことがステータスである、というニュアンスはあまりないようです。貸別荘が多いこともさることながら、かりに購入する場合でも比較的手に入れやすい価格であること、そして何より休暇を大切に考え、それは自然の豊かな場所で静かに過ごされるべきだという感覚が行き渡っていることが、別荘のニュアンスを普通の感覚にまで引き下げているのです。

 子どもの頃から別荘に慣れ親しんでいると、長い会社員生活を終えた頃には、都市での生活にピリオドを打ち、長い間別荘として使っていたものを生活の拠点としてしまうケースも少なくありません。子どもたちが独立し、夫婦ともに定年退職を迎えたピーターセンさんご夫妻は、静かな海辺の小さな別荘に住むこととし、都市にある自宅は子どもたちに譲ってしまいました。しかし子どもの家に赤ちゃんが誕生すると、ご夫妻は週に三日、車でその自宅を訪ねて孫の世話をしたり庭木の手入れをしたりして、子どもの家族の手伝いをしています。無期限の長い休暇とも言える老後であっても、生活の張りが失われることはありません。

 海辺の別荘地をあちこち歩いていると、彼らは実によく別荘の手入れをしていることがわかります。ペンキを塗り替え、煙突の掃除をし、周辺の草花の丹精も欠かしません。それらの作業はゆっくりと時間をかけて自分たちの手で行われるのです。それは自宅についても同じでした。十年単位で自分たちの暮らしを磨き上げてゆくという時間感覚は、百年近く前の家を手に入れて家族総出で少しずつ改装を続けるトルペさん一家にも見てとることができます。

 夏休みには限らず、休日ともなれば別荘地には人々の気配が漂いますが、気づいてみると、そこには「音」がありません。おそろしいほどの静けさが満ちています。離れたところにある日用雑貨を売る店や小さなレストランが並ぶエリアさえ驚くほど静かです。浜辺だろうがスキー場だろうがスピーカーを立てて音楽を流すことがサービスだと考えている日本人の感覚は、彼らには想像も及ばない世界なのだと思います。

 私たちの「休暇」には「移動しても都市なみの便利さと楽しさを味わうことができる」ことがどこかで前提になってはいないでしょうか。デンマークのごく普通の家族に見る「休暇の思想」は、私たちの生き方を点検する格好のサンプルにもなっています。