その靴屋さんは目白にあります。小さなお店です。ご主人と奥様と、アシスタントの女性の三人でやりくりしている「子ども靴専門店」。完全予約制なので「ふらりと入って」というわけにはいきません。予約をして行けば、一人に一時間ぐらいかけてたっぷりと子どもの足を見てくれる。そういう店です。

 この店のご主人、山岸勇さんは、最初から子どもに新しい靴をあてがってみる、ということはしません。子どもに店のなかを行ったり来たり歩かせたり、かと思えば自分の前に立たせて、片足で立たせたり……。特に説明はないので、「ん? 何を見てるのかな?」と子どもばかりではなく、親の頭のなかにまでいっぱい「?」マークが浮かんできます。

 ご主人の山岸勇さんは、以前はスキー靴とスキー板の販売と調整を専門にしていました。ある時期には、長野県で開かれている学生の基礎スキー大会の入賞者のうち、半分ぐらいは山岸さんが調整していた学生だったそうです。クチコミで「山岸さんの店がいいよ」と広がっていった、知る人ぞ知る小さな名店でした。ところが今は「子ども靴専門」。なぜそうなったのかはぜひ10月4日発売の本誌でお読みいただくとして……。

 山岸さんが子どもを歩かせたり片足で立たせたりしているのは、子どものからだのバランスを見ているためなのです。靴と足のフィッティング次第で、歩き方はもちろん、立っている姿も変わってくる、らしい。そして、靴のフィッティングでいちばん大切なのはどうやら「かかと」。靴の「かかと」の部分をどう調整すれば、子どもにとっての理想の靴になるのでしょうか? 

 お店には何千人もの子どもの足のデータが保存されています。どのような足型で、サイズはどのように大きくなっていったか、身長は? いつ靴を新調したか……等々の情報が記録として残されます。つまり山岸さんが数千人の子どもたちを見つづけてきた記録でもあるわけです。その山岸さんがちょっと気になることをおっしゃるのです。「近頃の子どもの靴のサイズは、少しずつ大きくなっているんですよ」。え? それは子どもの足が大きくなってきているということ? 確かに最近の子どもは身長も伸びて……いやいや、どうやらそういうことではないらしい。それはちょっと困ったなと思うような事態なのですが──。