いまさらご紹介する必要もないかもしれません。大貫妙子さんは音楽家として、三十年以上にわたり活動を続けている、日本のニューミュージック(……! この言葉はもはや死語になった感があります)の草分け的存在です。1973年に山下達郎氏と結成したバンド、シュガー・ベイブはたった一枚のオリジナル・アルバムを残して解散し、今もなお伝説的なバンドとして語られ続けています。

 ソロになって以降の大貫さんの音楽家としての素晴らしさは、もちろんその楽曲の魅力に負うところが大ですが、歌詞として書かれた言葉にも、他の作詞家にはないような独自な世界が広がっていて、歌の魅力をいっそう深いものにしています。そしてその言葉は、大貫妙子という人の、日々の生きかた、ものの見えかた、考えかた、感じかた、といったものが反映されており、まっすぐに生きるひとりの女性のすがたをあざやかに浮き彫りにもしているのです。

 音楽家としての仕事のほかに、初めてのアフリカ紀行を綴った『神様の目覚まし時計』(角川文庫)からスタートしたエッセイの仕事もあります。新潮社でかつて刊行されていた雑誌、「マザー・ネイチャーズ」や「シンラ」を舞台に、ガラパゴス諸島、南極大陸、アフリカ……といった大自然のなかを長期にわたって旅をし、淡々と綴った旅行記を読むと、短期間の観光旅行では見ることのできないものをしぶとくしっかりと見ている大貫さんの姿勢に、長く持続的に仕事を続ける原動力のありかを見るような気がします。

「考える人」の新連載「私の暮らしかた」は、アフリカや南極といった遠くの、なかなか手に届かない場所ではなく、日々の暮らしのなかで大貫さんが経験し、考え、行動することを、言葉によって伝える連載です。第一回では、2005年の夏から個人的に始めた米作りとその周辺について、また第二回では長年にわたって続けてきた東京暮らしに区切りをつけて、ご両親の住む葉山の家へ「ただいま」と帰ることになった顛末を綴っています。

 人生というものは、日々の暮らしの積み重ねでしかないということを、あらためて気づかせてくれる大貫さんならではのエッセイをどうぞお楽しみに。