子どもの頃の絵本、昔の教科書、愛読書……手垢にまみれて破れても、捨てるに忍びない本があります。裂けたところをセロテープで貼って、もっとボロにしてしまった経験を持つ人も多いはず。自分の手できれいに本を繕うというのは、もしかしたら本好きの夢かもしれません。

 内澤旬子さんはイラストルポライター。本業と並行して、フランス製本工芸を学び、インドや中国、東欧、中近東、東南アジアなど海外を旅して見つけた材料と製本技術を使ってユニークな手製本を製作・販売し、ワークショップを行い、地元の谷根千の地域で古本市を手がけたりと、さまざまなかたちで本と付き合っている人です。

 本を直してください、とお願いしたとき、内澤さんはちょっとためらいました。プロの資料修復を取材した経験から、本格的な本の修復がきわめて厳密な再現性を要求される高度な作業であることを知っていたからです。でも、古本が好きで、壊れたところを繕って自分で読めるようにしたり古本市に出したりしたい気持ちもある。図書館で「使うため」の修復に携わっている司書の方に、本の直し方の要諦をうかがい、「最小限の、柔らかい修復」という基本を胸に、さっそく古本の直しにとりかかってくれました。

 選んだのは、1920年代チェコの絵本、50年代アメリカの料理本。カバーや見返しの傷みがかなり激しい。内澤さんは製本家なので、作業台や専門的な道具も揃っています。でも、見ていて一番驚かされたのは、(丁寧な下準備があってのことですが)表紙、見返し、本文の束、などに思い切りよく解体していくこと。壊れた本を直すには、まずきちんとバラす――そして最小限の補修をした後に、時間と手間を惜しまず、丁寧に組み立て直すのだ、ということを目の当たりにしました。

 完全分解するときには、あとでわからなくなるのを防ぐために、折り丁の順番、内容、綴じ方などをメモしておく。剥がしとった物は封筒に入れて保存する。そんな、面倒な細かい作業も、内澤さんはこつこつとむしろ楽しげです。

 濡らして糊をはがした見返しや表紙、和紙でつないだ裂け目など、水分を含ませたら、かならず板に挟み重しをのせて完全に乾くまで固定。ぼろぼろに破れたカバーは、和紙で裏打ちする。バラバラにした本文の折り丁は麻糸で綴じ直し、背にしかるべき補強材をつけて固め直し、表紙、見返しと貼り付けて合体。一度に一工程ずつ、本をいたわりながらが鉄則です。

 本の基本的な構造さえわかれば、難しい技術は必要ではないそうです。ただし、先を急がずゆっくり、ということが、私たちにとっては、なかなかできそうでできないことかも知れません。古本を開いて読めるかたちに再生するまでに、内澤さんはのべ2週間、工房に通いました。かどかどが整い、ほころびが繕われた本の、なんと気持ちのよさそうなこと! 本との付き合い方を、もうひとつ、教えてもらえた気がします。『考える人』の記事をご参考に、「本の直し」にトライなさってみてはいかがでしょうか。