「直して使う」という特集が決まったとき、いちばん初めに頭に浮かんだのが堀江敏幸さんのことでした。堀江さんのお宅には、「クラシック音楽と本さえあれば」特集(2005年春号)のときにいちどおじゃましています。そこは、慌しい日常を忘れてしまいそうな、ゆったりとした時間の流れる場所でした。さまざまな年代の家具や小物ばかりでなく、新しいことこそ良しとされるはずのパソコンにいたるまで、あらゆるものに、なんらかの手が入れられ、大切に使われている気配があったのです。
 その暮らしぶりを支える考えについて、本特集に、「日々を取り繕う」という原稿をお寄せいただきました。ちなみに堀江さんは、1964年の生まれです。

 高度成長期と呼ばれる時代に生まれ育ちはしたものの、毎日の生活のなかに「直す」という行為がまだしっかり根づいていて、やたらと物が流通するようになるまえの暮らしを知っていた周囲の大人たちは、動かなくなったり破損したりした生活用品を安易に捨てないで、なんとか生き返らせようとしていた。……ぽいと捨ててあたらしいものを買うより、使い慣れたものを、手持ちの道具と材料で「取り繕う」こと。……日々を送るということは、精神面もふくめて、そうしたささやかな「取り繕い」の反復なのではなかろうか。

 壊れたり傷ついたりしたものが、あちこちから集まってきて、丁寧な直しを施され、ほっと一息ついているような、えもいわれぬ居心地のよさ。椅子、テーブル、掛け時計、灯り、ステレオ装置、文具、ぬいぐるみ……など、その空気をかたちづくっているさまざまな物。本特集では、堀江さんがそうした物とどのように出会い、どのようにつきあっているか、ひとつずつお話をうかがい、写真とともに紹介しています。あわせてごらんくださいますよう。