特集の準備をはじめたころ、串田孫一さんのエッセイ「こわれる」にゆきあたりました。『古い室内楽』という小ぶりの美しい自装本に収められた文章です。串田さんは、日々こわれてゆくさまざまなものを丹念に修理して使う名人でした。棚や電気製品など家内のあれこれはもちろん、靴からラジオ、井戸のポンプなど水まわりまで。

 美枝子夫人によると、後年、このごろの電化製品はめったにこわれなくなったけれど、ねじまわしで開けることもできず、つまらない、とおっしゃっていたとか。わたしたちがこの特集でお伝えしたかったことが、手を動かす人らしい、深みのあるすっきりとした文章で十全に言いつくされている。そう考えて、特集の冒頭に再録させていただくことにしたのです。そのなかから一部ご紹介しておくことにします。

「修繕をして直るとこれは気持がいい。むつかしいことは出来ない。むつかしいことは専門家にそれを頼むより仕方がない。しかし自分に出来る範囲のことなら、その品物を所有し、使っていたものとして、直そうとするのが当然である」

「私はそんな風に、品物を直していつまでも使っているので、けちのように思われることもあるが、私の方から言わせてもらえば、品物をぞんざいに扱い、こわれたらこわれたでぽいと捨ててしまう人は嫌いである。そういう人は人間をも自分をも大切に扱えない人のように思えるからだ」