美味しいものに理屈はいらない。熱いものは熱く冷たいものは冷たくして供し、そして素材はできるだけ新鮮なものをいじくりまわさず――という説にも一理あります。が、いやいや、美味しいものにはそれなりに理屈があるのよ、という声があがりました。それをほりさげたものがこの「美味しさの考察」。建築家、ワイナリーオーナー、発酵学者、生物学者、文学者、陶芸家……ご本業は関係あったりなかったりですが、それぞれの「美味しさ」の発見は長年の身を挺した探求のたまもので、実に興味深い考察が展開されました。

(1)玉村豊男「おいしい豚ヒレ肉の料理法」
ワイナリーオーナーでもあるエッセイストの玉村さんは、エッセイ『料理の四面体』でも知られるように美味しさの考察にかけては半世紀近くの実績をおもちです。その玉村さんが近頃気に入っているのが「低温調理した豚肉」。それはいかに調理でき、そしてなぜ美味しいのか……その詳細は、ぜひ本誌にてお確かめください。

(2)張競「文人と豆腐料理」
『中華料理の文化史』の著作をお持ちの張競先生が、中国の文人が愛し詠った食べ物のなかから「豆腐」を選び出し、薀蓄を傾けてくださいました。特集のグラビアで披露されているとおり、ご自身がたいへんなお料理上手でもあります。

(3)小泉武夫「発酵は料理のマジシャンである」
発酵博士の小泉さんは、「鰹節」「醤油と味噌」「チーズ」「魚醤」「その他」と古今東西の発酵食品の奥深い味の秘密を解読。それらが世界各地の固有な文化にどのように寄与したかを教えてくれます。

(4)福岡伸一「分子生物学的料理のコツ」
生物学者の福岡さんは、肉や魚を「熟成させる」ことの意味を、分子生物学の視点から明快に解き明かしてくださいました。プロの料理人や生産者たちが体験的に得たコツは、ヒトが進化するうえでも重要なことだったのか、と目からウロコが落ちる一文です。

(5)隈研吾「どんぶり建築論」
建築家の隈さんが発見した美味しさの要諦とは、実に建築家らしい視点でした。「寸法」と、それを人がとりこむときにもたらされる感覚「粒子感」、それが建築でも食べ物でも重要なのではないか……「どんぶり建築論」、ぜひご一読をお勧めいたします。

(6)町田成一「トマトの甘い魔力」
町田さんは、世の美味しんぼたちに絶大な人気と信頼を寄せられる『dancyu』編集長。近年、どんどん甘く進化を遂げる「トマトのうまい食べ方」を指南してくれました。すぐにつくってみたくなること請け合いです。

(7)山田和「天下の美味、茄子」
北大路魯山人の美食哲学に詳しい作家、山田和さんが、「もし魯山人だったら」と考えて、茄子尽くしを試みました(本誌グラビア参照)。その心は――と明かしてくださったのがこのエッセイ。

(8)椎名誠「野外料理の強烈レシピ」
「キャベツまるごと8個蒸し」「死に辛ソバ」「タマネ木と北極イワナのカレー」??? 男ばかり十人も集まってキャンプする、そんな集団キャンプ歴40年になんなんとするシーナさんが、記憶に鮮やかな強烈レシピを披露してくださいました。

(9)坂本素行「糖尿病S氏の食の愉しみ」
陶芸家の坂本さんは16年におよぶ糖尿病キャリア。でも病気によってむしろ料理と食の愉しみに開眼し、追究してきました。妻と息子を喜ばせつつ振り回しつつの料理人生をうかがいました。

食の楽しみ、美味しさは人それぞれ。その幅の広さを味わわせてくれる9本のエッセイを、どうぞごらんください。