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 「病は気から」は本当だろうか?
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 休み明け早々にひどい風邪をひきました。 ふだんはいつの間にか風邪をひいているのですが、今回は「あ、あれでひいたんだ」と特定できる瞬間がありました。

 家族で外出し、レストランで食事をしていた時のことです。前菜を食べ終わった頃、隣のテーブルに仕事関係の集まりらしきグループが座りました。そのうちの私のすぐ左隣の人が、しきりに鼻をすすり、ときどきとめられない感じでくしゃみを連発します。食事のあいだずっと辛そうにしている気配が伝わってきました。

 ふだんなら、隣の席の人のくしゃみや咳ぐらいで風邪が伝染るとは感じないたちなのですが、この時はなぜか私の首筋あたりにスーッとすきま風があたるような嫌な感じを受けたのです。

 自宅に帰ってしばらくすると、喉の右奥が辛いものを食べたときのようにひりひりしはじめました。不思議なのですが、その時には風邪が伝染って喉がひりひりするのだとは結びつけて考えていませんでした。だいいち潜伏期間があるはずです。

 翌朝、目覚めてみると、隣のテーブルに座ってくしゃみをし鼻をすすっていた人とまったく同じ症状になっていました。妙な話なのですが、自分でも可笑しくなるほど症状が同じなのです。

 しかし不思議なのは、もし隣の人のくしゃみが風邪の病原体を空中にまき散らしていたとするならば、同席していた私の家族も同じ風邪をひいてもおかしくないはずです。しかし妻や娘には風邪らしき症状は現れませんでした。

 子どもがやけどを負った時、そばで見ていた親が「あっ」と大きな声を出し大慌てで処置をした場合と、大声は出さず静かに慌てず処置した場合では、前者の場合にはやけどの痕が残り、後者の場合にはやけどの痕が残らない場合がある、というような話を聞いたことがあります。子どもが親の慌てぶりを見て大変だと意識することがやけどの症状を重くする、というのです。

 こころとからだは、深く結びついているはずです。つまり私が隣の席の人のくしゃみを何か嫌なすきま風のように感じたという意識が、風邪をひく原因をつくったのかもしれない、と思わないでもないのです。病は気から、というやつです。

 医師はインフルエンザを疑い検査をしました。二日後に再度医院を訪ねたところ、医師は「この前の検査結果が出ました。インフルエンザは陰性ですね」と説明しました。

 ひょっとするときっかけは気のせいだったかもしれないと思いつつも、そのように意識することで風邪が快癒したかといえば、これはまったくそうではないのです。いまだに鼻はすっきりしませんし、頭も重い。からだは思うようにはいきません。

 今年のインフルエンザはずいぶん広がり始めているようです。娘の学校でも学級閉鎖がありました。ひとごみが最大の感染場所になるということでいえば、インフルエンザは都市化の代償です。ひとごみに出ないわけにはいかない都市の住民としては、手洗いとうがいで防衛するしかなさそうです。みなさんもくれぐれもお大事になさってください。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)