音楽好きの人にとって、「あの人」がどんな部屋で、どんなオーディオで聴いているのかは関心のあるところではないでしょうか? 今回の特集では、安岡章太郎さん、高村薫さん、堀江敏幸さん、勝本みつるさん、中島義道さんの五人の方に登場していただくことになりました。

 安岡章太郎さんのリビングには暖炉があります。ちろちろと薪が燃えるなかで音楽を聴き、長い時間をかけてしぼられていった安岡さん好みの音楽について、悠揚として迫らぬ語り口でうかがっていると、時間の経つのを忘れてしまうほどでした。東京オリンピックの1964年に入手したオーディオも今も現役で活躍しています。真空管アンプというものは、このような部屋で、安岡さんのような方が使ってこそ絵になる、と思わずにはいられません。

 高村薫さんの音楽の聴き方は、主に「ながら」だそうです。料理をしながら、洗濯をしながら、そしてお風呂に入りながら。そして、一日の流れのなかで音楽をとらえると、「私にとって、音楽は夜のイメージ。それが響くと、夜がずっと深く感じられるようなものがいい」。入浴の際に流して聴くのには、ペルゴレージの宗教歌曲「スターバト・マーテル」を選ばれるそうです。

 堀江敏幸さんの書斎兼仕事場は、堀江さんならではの本、モノが淡々と並んでいました。独特の気配を漂わせているのは、この空間には新品のぴかぴかのモノがほとんど含まれていないからでしょうか。なかには百年以上も前のブルドッグのぬいぐるみ、などという大切な“住人”も含まれていました。そしてオーディオ装置もほとんどが三、四十年前の機種だそうです。アンプは二度の修理と調整を経たもの。「手をかける」という言葉をじわりと思い出させてくれる部屋でした。

 昭和十年頃建てられた集合住宅に住む造形作家の勝本みつるさん、電車で自宅と大学を往復する際に外の音を遮断するためにヘッドホンステレオが手放せないという哲学者の中島義道さん。それぞれの生活について、暮らし方の作法のようなものがあって、その姿勢が音楽を聴く環境や装置をおのずと決めている。少し考えれば当たり前のことですが、五人の方々にお話をうかがいながら、音楽の聴き方とはその人の生き方である、ということが垣間見えたような気がします。