作曲家、武満徹さんが亡くなったのは1996年のことでした。武満さんは音楽はもちろん、映画を観たり、本を読むことについても大きな情熱を傾けていた人でした。亡くなる7ヶ月ほど前に、新聞にはこのような文章を寄せています。

「読書の様態は、ひとそれぞれ、千差万別である。読書には、映画のように、必要とされる限定された時間というものはない。読書に費す時間は個別のものであり、その速度は一様ではない。時間をかければより内容が把握できるというものでもない」(『時間の園丁』所収)

 映画も音楽も、時間の芸術です。始まりと終わりの時間を観客は共有することができます。しかし、武満さんが書いているとおり、読書のなかに流れる時間は個々人によっていかようにでも変化します。それは、音も立てずに黙々と進む、密やかな時間です。それでは、武満さん自身の読書の時間は、どのように流れていたのでしょう?

 武満徹さんと長年連れ添った夫人、武満浅香さんに、読書をめぐる武満さんの思い出を語っていただきました。就寝前、煌々と明かりを点けたまま本を読んでいたこと、推理小説も愛読していたこと、友人である谷川俊太郎氏との読書傾向の違い、などなど、興味深いエピソードが次々と語られていきます。

 東京・東村山の自宅と、長野・御代田の別荘を行き来しながら武満さんは作曲をし、本を読む生活を送っていました。東村山の自宅は武満さんが亡くなってしばらく後に整理され、現在は残っていません。整理される前に、新潮社写真部のカメラマンが当時の担当編集者とともに東村山の家を訪ねて、武満さんの仕事場を記録として撮影しました。今回は未発表の写真を掲載し、壁いっぱいを占領していた本棚にはいったいどんなものが並んでいたのか、その一部をご紹介しています。