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 紙の問題
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 翻訳書のシリーズ「新潮クレスト・ブックス」をスタートさせるとき、どんな作品を選ぶかはもちろんのこと、シリーズの雰囲気やイメージを左右するブックデザインについても相当知恵を絞りました。実際に知恵を絞ったのは装幀室のデザイナーです。最初の本が刊行される一年ぐらい前から、デザイナーとの相談を始めました。

 ブックデザインときけば、外側のカバーばかりに目がいきます。しかし本文組をどうするかも重要です。例えば、書体、文字の大きさ、一行の字数、一ページの行数、ノンブル(ページを表す数字です)の書体や位置、それぞれの要素が、本を開いたときの印象を決めます。この本文組についても、デザイナーが何種類かの案を出して、最終形まで詰めていきました。

 その他にも、ハードカバーなのかソフトカバーなのか、本文の紙はどんなものにするのか、カバーのデザインはどれぐらい統一感を出すのか、などなど検討すべき項目は山ほどありました。本文紙については、何種類か候補の紙を絞って、実際に製本をしてもらい、パラパラとめくってみたり、片手に持って重さをはかってみたり、「実際手に持ってみてどんな感じか」を、理屈ではない感覚の部分を重視して検討しました。

 最終的に本文紙として採用されたのは、北欧からの輸入紙です。選んだポイントになったのは、手に持ったときに軽い、柔らかいということ。この紙なら、海外の書籍を手にしたときの独特の雰囲気を出せる、と感じたのです。北欧の輸入紙は針葉樹から作られたもので、普通の紙に較べて繊維が長いため、紙も軽くなる、ということでした。

 幸いシリーズは好調なスタートを切ることができ、ブックデザインについての評判も上々でした(話題がそれてしまうのでここでは触れませんが、クレスト・ブックスで始めた新しい製本技術はたちまち他社でも真似するところが出てきてしまい、今は「クレスト装」と呼ばれるものになっています)。ところが、シリーズが二年目、三年目に入る頃、紙を決めるにあたって少々心配していた事態が起こりつつあったのです。それは、歳月が経つと紙がうっすら黄色く褪色してしまうことでした。紙が「焼ける」のです。気に入ってもらった本であれば長く書棚に置いてもらいたい。再読されることもあるでしょう。その際に紙の色が変わってるのは興ざめです。似た味わいの紙で「焼けない」ものはないか、とデザイナーと資材担当者が新しい本文紙を探して、現在のクレスト・ブックスの本文紙にバトンタッチされることになりました。

 実は今、「考える人」の本文紙をどうするか、少し悩んでいるところです。「『考える人』はじっくり読むのにはいいのだが、手に持ってずっと読んでいるとちょっと重すぎる」。以前に行った「読者アンケート」のなかで、そのような感想を寄せてくださった方が数人いらっしゃったのです。私もソファにごろりと横になって本を読むのが好きなのですが、分厚い本や、持ち重りのする雑誌はたしかに疲れることがあります。「考える人」が重いといっても、大判の婦人誌に較べたら半分以下の重さしかないのですが、婦人誌はリビングのテーブルの上に置いてパラパラと眺めるケースが多いでしょう。読むページが多い「考える人」とは単純に比較はできません。

 カラーページの紙は変えないつもりです。質の高い美しい写真を再現するのにふさわしい紙を選んでいますし、私としては気に入っているので変えたくない。しかし、カラーページではなく、一色や二色ページで使用している本文紙を再検討する余地はないのか、と思い始めています。「考える人」のデザイナーと資材の担当者には相談をして、次号が校了になったところで、三種類の新しい紙を使って試しに刷ってみる、という段階にきています。候補として選んでいるのは軽い紙です。もちろん今回も製本してもらって、手に持った感じ、めくる感じなどをよくよく確かめてみるつもりです。

 検討の結果いかんでは、10月4日発売の号から、本文紙の一部が変わるかもしれません。「いや、やっぱりいまのままでいこう」という可能性もないわけではありませんが、今はとりあえず、来週あたりに印刷所から届く三種類の見本を楽しみに待っているところです。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)