「脳の仕組みがここまでわかったから、心の仕組みは解けたも同然」という大胆な仮説が登場しています。そのいっぽうで、「脳の仕組みがここまでわかったけれど、心の謎はますます深まった」と考える脳科学者も少なくありません。いったいどっちなんだ! と結論を急ぐ前に、そもそも「心と脳」の問題がこれほどクローズアップされるようになったのはなぜなのでしょうか? そして、研究や理論が実に多種多様であり、近年その議論が白熱化し始めたのはどのような背景があるのでしょうか? その全貌を、まずはじっくりと眺め渡して、整理しておきたい、私たちはそう考えました。

「クオリア」(=質感)を手がかり足がかりとして、「心と脳」の間に横たわる大きな謎に迫ろうとしているのは、若き脳科学者・茂木健一郎氏です。茂木さんの著作に独特の魅力があるのは、「クオリア」というキーワードの持つ奥行きの深さばかりではなく、茂木さんが「心と脳」を考える際に、数値化できない個々人の経験について、言葉によって丹念に考えようとされているところです。漱石や小林秀雄など、文学の世界への造詣の深さについても特筆すべきものがあります。

 茂木さんを案内役に迎えて、「心と脳」をめぐる諸問題を総ざらいし、その未解決部分と可能性について考えてみよう──これが「考える人」創刊三周年を記念する総力特集のテーマです。

 脳科学者である前に、ひとりの人間である茂木さんに、私たちは質問してみたいことがありました。そして、私たちの素朴な疑問に、脳科学者としての茂木さんがどう答えてくださるか、実に興味深いところでした。教科書的な言葉ではなく、体温や息づかいを感じる言葉によって、茂木さんはどのように答えてくださるか。私たちが用意した10の質問を以下に並べておくことにします。その回答は、7月4日発売の最新号でぜひごらんください。

茂木健一郎氏への10の質問

1 自分の「心」を最初に意識したのはいつですか? それはどんな経験でしたか?

2 脳科学を学ぼうとした最初の動機は何ですか?

3 脳科学を学ぶことによって、自分自身の「心」についての感覚、意識、考え方、認識に変化が起こりましたか?

4 「心」の働きの部分を除いて、「脳」のしくみについては、かなりのところまで解明が進んだようですが、もしパーセントで表すとすれば、何パーセントぐらいがわかったといえるのでしょうか?

5 「心」はいつ出来上がるのですか? 胎児のときには「心」はないのですか?

6 動物には「心」があるのでしょうか?

7 人間の「心」の謎と「宇宙」の謎では、どちらが先に解けると思われますか?

8 人間が「心」の謎を解き明かしたとすれば、人間にとって良いことは何があるでしょうか? 良くないことがあるとすれば、それはどんなところでしょうか?

9 「私」の「私」たるゆえんは、「心」にあると感じます。もし、「心」の働きのすべてが「脳」にあるとすれば、「脳死」の人に「私」はあるのでしょうか?

10 「心の謎」が解けたとき、人間は変わるのでしょうか?