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 1968年の大雪。1963年のチラシ。
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 先日、私も末席で関わっている或る仕事についての会合があり、様々なジャンルで働いている方とアイディアを出し合い、次のステップに向かうための相談をしていました(思わせぶりな書き方ですみません。そのうちにこのメールマガジンでも具体的にご紹介できると思いますが)。途中からこのプロジェクトに加わったYさんという方とその会合で始めてお会いしました。Yさんはてきぱきと判断をくだし、発言します。発言すると言っても、批評家的ではなく、自分の手をどんどん動かす実践派でもありました。

 的確で素早い判断も「まなじりを決して」ではありません。いつも笑顔で冗談まじり。基本姿勢は前向き。(あー、会社の会議となんと雰囲気の……)と思いながら、半分圧倒され、半分感動して、Yさん(ちなみに女性です)の新たな参加にしみじみと感謝する気持ちになりました。少し及び腰だったかもしれない自分の姿勢まで、ぐいとただされて、やる気まで与えられた気もします。組織が動くときはどういうときか、見事なサンプルをポンと手渡されたような場面でした。

 朝10時から始まった打ち合わせがちょうど昼時で終わったので、全員で近くの中華料理屋へ行き、ランチを一緒にとりました。Yさんと隣合わせに座ったのでいろいろと雑談していたら、Yさんには中学生の男の子と小学生の女の子がいるらしい。子どもの話になるとお互いに親の顔に変わりました。「今日はこの後、2時から息子の保護者会なんですよ。だからこんなお母さんファッションで来ちゃって(笑)。成績表も手渡されるんだなあー今日。何度もひどい点とってきたし遅刻の常習犯だし、あーやだ。もう憂鬱(笑)」

 今年の冬の寒さについて話が及んで、思い出したことがありました。私が小学校3、4年生ぐらいの頃、東京に大雪が降りました。子ども心にも「これは凄い」と呆気にとられ、大雪を見ていた記憶が残っています。20センチ以上の積雪があり、都内はどこも静まりかえって、人々の声と雪を踏みしめる音はつぎつぎに雪に吸い込まれていきました。「その大雪、1968年でしょう? たしか」とYさん。私は年号を覚えるのがほんとうに苦手です。「お互い小学生だったということになると、私が同世代だというのがバレちゃうわね(笑)」「いやいや、ぼくのほうが年上でしょうけど」

 昔の木造の家は、夜は雨戸を閉めていました。それでもあちこちに隙間がありましたから、大雪が降った日の朝は、異様な静けさと、雪の反射による妙な明るさがあちこちから漏れだして、雨戸を開けなくてもなんとなくまぶしい感じがしたものです。自宅の前の道路はゆるやかな坂になっているところがあって、道路に大雪が降り積もると、よほど事情がある車以外は入ってこなくなります。そこが俄にゲレンデ化し、ソリ遊びをすることになるのです。大雪の日、まだ30代だった独身の叔母たちが突然スキー板を運び出し、道路のゆるやかな傾斜を利用してスルスルと滑り始めます。「まさしちゃんも滑ってみたら」と言われて、後ろから両手で肩を支えられながら、本当におそるおそる、たった10メートル程度のゆるい坂を初めて滑りおりたことを覚えています。

 Yさんもおそらく小学生の、それも低学年だったのでしょう。どんな気持ちで大雪を見ていたのでしょうか。その頃から今のようにてきぱきしていたのかな。それとも40年近い時間が流れるなかで、じわりじわりとそういう人柄に育っていったのか。私の性格はほとんど変わらないような気がしますが、ただ対外的な話し方やふるまいは変わっただろうなと思います。何しろ大変な内弁慶でしたから(「今もそうじゃない?」という声がどこかから聞こえてくる……)、人前で話すなんて苦手中の苦手でした。30歳以上の男を信用するな、という言葉の意味が昔はよくわかりませんでしたが、48歳となった今は自分のこととしてよくわかります。

 小学生の上に40年近い時間が流れて、普通だったらすれ違うこともない仕事を持った人間同士が、こうやって一緒に仕事をすることになり、昔の大雪の話をする、なんてこともあるのですね。毎日追われるような仕事ばかりしていても、いや、だからこそ、こうやって新たに人と出会うこともあるのだな、と思います。愚痴ばかりこぼしてないで、働こう。

 というところで突然話はかわりますが、いよいよ来週の火曜日に迫った伊丹十三・幻の監督デビュー作「ゴムデッポウ」の上映会について、最後のお知らせです。最新号の「考える人」(12月28日発売)に「ゴムデッポウ」の出演者、「イッちゃん」こと市村明さんへのインタビューが掲載されることはすでにお伝えしたとおりですが、その際にイッちゃんから提供を受けたものがあるのです。それは1963年当時の「ゴムデッポウ」のチラシ。二つ折りで、手のひらサイズの小さなものなのですが、イッちゃんは捨てずにとっておいたというわけです。二つ折りをさらに四つ折り、八つ折りに小さく畳んでいたらしく、あちこちに白い筋目が残っているのですが、いやしかし、よくぞとっておいてくださった、と頭がさがりました。

 そして、イッちゃんの快諾も得て、また当時の配給会社である東宝東和にも快く使用のご許可を頂戴することができたので、当日ご来場の皆様には全員にこのチラシの複製をお渡しすることになりました。1963年の「皺入り」チラシ、どうぞお楽しみに(ちなみに前売り券は残部僅少です。当日券は午後5時から草月ホールの受付で販売いたします。前売り券が売り切れた場合には、早めに会場にお越しくださいますよう)。

 伊丹十三 幻の監督デビュー作『ゴムデッポウ』 http://www.shinchosha.co.jp/gomudeppou/index.html

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)