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 お祝いと驚き
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「考える人」は次号で創刊4周年を迎えます。創刊号が発売になった2002年の夏は、サッカー・ワールドカップの決勝戦でブラジルがドイツを2対0で破った、その4日後のことでした。最優秀ゴールキーパーに選ばれたオリバー・カーンが、ブラジルに敗れた瞬間に見せたピッチでの佇まいや表情は、今でも脳裏によみがえるほど印象に残るものでした。オリバー・カーンは今回のドイツ大会では控え選手となり、2008年には引退という本人の意向も先日新聞で報道されていました。月日が経つのは本当に早いものです。

 創刊4周年を記念して次号で予定している「戦後日本の『考える人』百人百冊」と題する特集は、このあたりでもう一度、誌名にも選んだ「考える人」とはどういう人のことを言うのだろうか、と具体的な人物を手がかりにして確認しておきたいと考えたからでした。現在発売中の最新号(06年春号=通巻16号)の最終ページで、次号予告をお読みくださった方もいらっしゃると思いますが、改めて「次号予告」を引用して、特集の企画意図をお伝えしておきたいと思います。

「考える人」とはどういう人か。まずはそこから考え直してみる──次号の特集では「考える人」イコール思想家、批評家、と限定しないことにしました。考えることは、紙の上の出来事とは限りません。生きてゆくことそのものが考えることであり、言葉では伝わりにくいものを何かのかたちにして表現し、恬淡と去っていった人もいたはずです。(──ちなみに百人は物故者から選ぶことにしました。)「考える人」は眉間に皺を寄せている人ばかりでなくこころの底からうれしげな笑顔の人もいたでしょう。もちろん、思想や批評の人もきちんとふり返りたい。残された著作で何を読めばいいのか、読み違えていたことはないのか、時代の流れのなかで低く見積もっていたことはないのか、あるいはその逆も──。虚心坦懐に読み直す機会にもしたいのです。私たちが生きてきた時代が見えてくればなおうれしい。これからの時代を生きてゆく糧のようなものが得られれば私たちの足取りも少し軽やかになってくるかもしれません。(次号予告より)

 百人をどうやって選び出すのかについては、様々な方法が考えられます。悩み始めればきりがないところでした。しかし今回は「考える人」の創刊4周年をささやかに言祝ぎたい気持ちもあり、あまり悩まずに楽しみながら選出作業を進めるスタンスで臨みたいと考えました。創刊号以来おつきあいいただいている「考える人」の何人かの執筆者の方々とも相談をし、編集作業を開始したところ、編集部はいつもにも増して頻繁にワークテーブルに集まって、相談をするようになりました。そしてどこか生き生きとした顔つき目つきに変わってきたのです。物故者から選ぶという限定がもしなかったら、こうはならなかったかもしれません。

「考える人」の執筆者の方から「この人についてなら書いてみたい」という反応があった場合、それがちょっと意外な人選だったりすると、なおさらスタッフの目が輝きます。今回の百人の人選は、誰が誰について書いているか、ということもご注目いただきたいと思います。選考の過程は何段階かの手順を踏んでいるのですが、そのことについてはあらためてご説明したいと思っています。

 今回の編集作業のもうひとつの大きなテーマは、選ばれた「考える人」の、なるべく魅力的な写真を選びたいということでした。単に切手大の小さな顔写真を並べても面白くありません。それぞれの人々がいかにもその人らしい表情、あるいは撮影されている状況が面白い写真を探し出してきて掲載したいと考えました。特集「一九六二年に帰る」で使った写真は新潮社写真部のアーカイブから探し出してきたもので、これが実に面白いものばかりだったのですが、今回も新潮社写真部に机をひとつ借りて、選ばれた人々の写真をネガから探し出す作業を始めています。集まったのはまだ20~30人程度に過ぎませんが、これが予想を上回るほど面白い。「この写真は、なんの目的で、どんな状況下で撮影されたんだろう?」と思わず声の出そうになるものまであります。これからは他社の写真部にも足を運び、同じような驚きに満ちた写真を探索するつもりです。次号の成果にぜひご期待ください。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)