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 9月13日(水曜日)
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(頭がほとんど働かないので、今回は昨日の日記を書くことにしました。ご了承ください)

 6時55分起床。ラジオでは「現在の気温は17度です」と言っている。肌寒い。今朝は何も食べられない日。「日本茶と水なら飲んでもけっこうです」と書いてあったが、毎朝飲んでいるのは紅茶。日本茶が大丈夫で紅茶がだめ、というのはミルクや砂糖がいけないのか。だったらミルクを入れなければいい、と勝手に判断して紅茶を飲む。

 9時25分出社。別館3階にある自分の机にかばんを置いて、1階脇に駐車しているレントゲン車へ。年に一度の検診を受けるとき、「もう一年か」と毎年のように唖然とする。早い。別館の4階ホールに臨時に設えられた検診コーナーをひとめぐり。体重、身長、尿検査、視力、血圧、聴力、心電図、超音波、問診、血液検査、診察。尿検査の担当者に質問。「日本茶は飲んでいいと書いてあったんですが、紅茶は飲んだらだめなんでしょうか?」「いや、砂糖とか入れたのを飲まれると検査に影響が出る可能性があるので」「じゃあ、ミルクと砂糖を入れないブラックなら大丈夫ですか?」「今朝お飲みになったんですか?」「はい……砂糖もミルクも入れてませんけど」「なら大丈夫ですよ」

 超音波検査は、肝臓に今はどうこうという心配のない若干の問題があるので、いつも他の人より長い時間をかけて調べられる。お腹に塗られるジェルのようなものの正体は何なのだろう。「息を吸ってぇ止めて。ハイ、楽にしてください」「今度は息を吐ききって、ハイ息を止めてください」ときどき検査技師の人が「ハイ、けっこうです」「楽にしてください」と言い忘れる場合があり、呼吸を止めたままで苦しくなることがある。馬鹿みたいだが、言われるまで待つ傾向があるのは自分がイヌ年生まれだからか。血液検査も苦手。注射器で抜かれた血が試験管状のものに二本、三本と溜まっていく。「気持ち悪くありませんか?」と聞かれると、その言葉に誘導されて気持ち悪くなる。

 別館から渡って、道路の向こう側の本館へ。3階の自分の席に行き、校閲部から届いている「考える人」のゲラのチェック。疑問がいくつか出ていた。著者宛にゲラのコピーをファクスする。紅茶以外なにも口にしていないので、血糖値がだんだん下がってくる。昼食のスタートする11時30分になるのを待ちかねて地下の食堂へ。今日のメニューは三色重。ちょっと言うのが恥ずかしいが好きなメニュー。大盛りよりやや少なめの「中盛り」にしてもらう。三色重を食べながらお昼のニュースで松井のメジャー復帰早々の四安打を見る。凄いなあと思う。ミルクと砂糖を入れた紅茶をごくごくと飲みながら「しかしNHKのトップニュースか」とも思う。エレベーターで3階に戻り洗面所で歯を磨く。ワークデスクでゲラの作業の続き。校了箱に入っている責了紙も二本読む。文芸第一編集部のKさんと12月末発売の文庫の打ち合わせをする。傘をさして道路を渡り、ふたたび別館3階に戻る。

 メールへの返事を何件か送信する。国内ばかりでなく海外からも送られてくる迷惑メールは一日で多いときには三十件近く送信されてくる。それなりの対策をとったことがあるが、減らないどころか、かえって増えてしまった。最近は「送信者を禁止する」という手続きもとらず、ひたすら削除。出社して最初の仕事は半日分の迷惑メールを削除すること。

 また道路を渡り、本館へ。途中で1階の営業部へ。雑誌担当のTさんが、「芸術新潮」の次号のクリムト特集用に「小さめの書店用パネルを手作りで少し作ろうと思うのだけど」と提案。部数も少し上乗せしてくれる模様。営業部の女性が「この号は絶対に売れる」と断言してくれたらしい。ありがたい。「あ、それから『考える人』ですけど、イスラムの特集が売れるかどうか心配なのは相変わらずなんですけどね(笑)、でも昨日メールで送ってくれた特集の内容説明を読んだら面白そうですね。いや、面白いと思った。でも書店で手に取ってくれるか、なんですよ問題は。読んでもらえば面白いのは間違いないんだけど」

 エレベーターに乗り、3階に戻って「考える人」の雑誌用広告のチェック。同じワークテーブルで、イスラム特集担当のSさんが分厚いゲラのチェックをしている。彼が現地取材したレバノンは、帰国後、イスラエルとヒズボラが交戦状態になり、もし取材の時期が後ろへずれていたら、出張は中止になっていたはず。取材した家族の住まいは爆撃された地域から4キロと離れていなかった。昨日はシリアのダマスカスで、アメリカ大使館を武装勢力が襲撃する事件があった。彼が取材した三カ国のうち二カ国が続けて焦臭い状況に陥っている。いろんなことに無頓着なように見えて、実は慎重に事を進めるタイプのSさんなら、不測の事態にも対応できたかもしれないが、いきなり何かが飛んできたり、目の前で炸裂したら、打つ手はない。とにかく何事もなく帰国できたのは本当によかった。この一月のニュース報道を見てあらためてそう思う。

 6時を回ったところでひとりで夕ご飯を食べに出る。傘をさして、徒歩三分のところにある洋食レストランへ。二階には先客がひとりいるだけ。サンマのレモン醤油焼きをたのむ。ひとりでごはんを食べると、ただでさえ食べるのが早いのに、あっという間に食べ終わってしまう。今日は昼も夜もひとりで食べた。特集担当のSさんが以前に言っていたことを思い出す。「文明人はひとりでごはんを食べちゃいけません。会話をたのしみながら食べなきゃ」。傘をさして黙々と会社に戻る。帰りにまた本館3階に寄って、要再校ゲラのチェックをする。ふたたび道路を渡って別館3階へ。

 夜は「芸術新潮」の校了。アートディレクターの日下潤一さんと日下さんの事務所のB-GRAPHIXの人たちが会社の別室で色校のチェック。10時頃に日下さんが編集部に現れて、しばらく話をする。日下潤一さんの個展「あいう絵と本」が今週の15日(金曜日)から27日(水曜日)まで東京・青山のHBギャラリーで開かれる。http://www.hbc.ne.jp/hbg/index.html 事務所の人たちの作業は11時に終了。帰っていく。校了作業の合間に、「考える人」の書店用ポスターのコピーを考える。うまくいかない。あきらめて明日の仕事にする。

 11時を回ったころからもう眠い。昨日は8時過ぎに帰宅できたのだから、さっさと眠っていればよかったのだが、家でつい仕事の続きをしてしまい、就寝したのは午前2時だった。20代の終わりぐらいまでは、朝の8時ぐらいまで仕事をしていても平気だった(?)のに、40歳になって以は、日付が変わるとまぶたが重い。眠気ざましに午前零時頃、また本館へ傘をさしてでかけ、階段をのぼって3階へ。珍しく誰もいない出版部でひとつだけ仕事を片付けてまた道路を渡り別館に戻る。別館は数日前からダクトが故障したらしく空調がほとんど機能していない。外気の涼しさにくらべてモワンとした空気がよどんでいる。ますます眠くなる。仕方ないので窓を開けて雨の降り続く外気を入れる。夜遅くなっても途切れないクルマの音が聞こえてくる。13日分の校了作業が終わったのが午前2時55分。3時25分帰宅。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)