「バザールでござーる」や「だんご三兄弟」などの映像表現で誰もが一度は目にしたことのある佐藤雅彦さんの多岐にわたる仕事のなかで、たった今いちばん面白いと思うものは、NHK教育テレビの「ピタゴラスイッチ」です。もしまだご覧になったことがない方がいらっしゃったら、まずは平日の朝8時10分からの5分番組をご覧ください。佐藤さんの映像表現には、日本的な情緒や複雑深遠なテーマといったものは周到に排除されています。あきれるほどの単純化があり、しかしその単純化されたものに、私たちの脳のなかのふだんは眠っていたかもしれない部分に、なんともいえない不思議な刺戟が与えられ、目を覚まされるのです。

 佐藤さんは慶應義塾大学環境情報学部教授としての研究のなかで、映像と脳の反応について強い興味を持ち、慶應義塾大学医学部脳神経外科の大平貴之先生との協同で、あるアニメーションを制作し、その映像を被験者に見せて、脳がどのように反応するのかを測定する実験を行いました。

 残念ながら動く映像としてはお見せできませんが、アニメーションは二種類あります。それぞれたった5秒のものです。右はバラバラに動く光の点の映像のなかに、突然0.03秒だけ顔の絵柄が挿入されるもの。そして左はバラバラに動く光の点が0.03秒かけてふわっと顔のかたちに収束し、ふたたびふわっとした動きを経過してバラバラな光に戻る、というもの。

 見ていただければ実感できるのですが、「ふわっと」顔になり「ふわっと」顔が消える映像を見ているときだけ、わたしたちはこの「ふわっと」した感じを、なにか「胸騒ぎ」のような感覚とともに強く印象付けられます。この「ふわっと」したものの正体とは一体なんなのでしょうか?

 佐藤さんは、この「ふわっと」したものに、人の「心」のありかを求めています。実際の反応を測定した実験結果からは、極めて興味深い事実が浮き彫りにされてきます。そして私たちが佐藤さんの映像表現になぜあのような不思議な「胸騒ぎ」を覚えるのかの仕組みもうっすらと見えてくるような気がしてくるのです。実際の実験結果のグラフと大脳のどの部分が刺戟を受けているのかの「脳磁図」も掲載しています。佐藤雅彦さんへのインタビューと併せてぜひご注目いただきたいと思います。