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 私が死神だったころ
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 先日、毎日芸術賞と毎日書評賞の授賞式とパーティに少しいそいそとした気持ちで出かけました。毎日芸術賞には野田秀樹さんが、毎日書評賞には鶴見俊輔さんが選ばれていたからです。私は仕事と人を切り離して考えることが苦手なたちで、だから好きな人の仕事をするのが好き、という「わがまま」で「融通のきかない」編集者。

 しばらく前にテレビで見た「情熱大陸」で、幻冬舎の見城徹さんが「人と作品とどちらを選ぶか」というようなディレクターの質問に「作品」だと即答し、「どんなにいい奴でも作品がつまらなかったら駄目、どんなにひどい奴でも作品が素晴らしければ当然そちらをとる」という主旨の発言をされていて(正確な引用ではありません、念のため)、私は自分の編集者としての限界をあらためて感じました(これも正確な気持ちではないな)。ちなみに私は人としての見城さんは好きです。

 話題をもとに戻しましょう。野田さんも鶴見さんも「人として好き」度がかなり高いため、授賞式パーティの当日はいそいそと出かけることになったのですが、そういえば私は20年以上前、大好きな野田さんに「死神」よばわりされたことがありました。

 私はまだ20代で、「小説新潮」の野田秀樹さんの連載見開きエッセイ「おねえさんといっしょ」の担当でした。これが実に難物で、毎月いただく原稿はおそろしく遅い。字もきたない。編集者泣かせの典型なのに、やっと手にしてみれば無類に面白いので、毎月の難行苦行を心待ちにするようになりました。当時は原稿をいただくためにどこへでも行っていましたから、月に1回は、都内のどこかで野田さんと会い、雑談をしていたことになります。

 ただでさえ遅いのに、芝居の公演中に締め切りが重なると最悪でした。締め切
りを1週間過ぎるのはあたりまえ、目次も校了になって、南伸坊さんのマドンナ
を描いたイラストレーションも完成し(野田さんとの事前の相談でその月のテー
マに選ばれていたのが、「ライク・ア・ヴァージン」で人気だったマドンナだっ
たのです)、原稿に貴賤はないものの、編集長の席のあたりから「たかが見開き
エッセイで何やってんの!」という幻聴まできこえてくる始末(いや……幻聴で
はなかったかもしれない)。そんなギリギリの日、野田さんが本番の最中に舞台
のセットから転落して慶応病院に緊急入院したのです。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)
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