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 長電話
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 先日、20数年来の知り合いである他社の先輩(編集者ではないのですが)と昼食をともにしました。場所は銀座のあたらしいレストランです。お客さんは95パーセントが女性客でした。男ふたりというのが少し肩身の狭い感じ。ちなみに先輩は60歳になったばかりです。

「マツイエくん、この頃の若い人は『長電話』と聞いたとき、どれぐらいの時間をイメージするか知ってる?」「長電話ですか。うーん。みんな自分の携帯持ってますからね、ぼくたちの世代とはちがって、親に長電話の気兼ねをする必要もないだろうし……1時間ぐらいかな」「そうだよね、そう思うよね。ちがうんだよ。3分なんだよ、3分!」「え? 3分?」「そう、3分。つまりさ、話さないわけ、電話ではもう。全部携帯メール。ふだんから携帯はメールのために使うの。用件を電話で話すというのは珍しい事態でさ、それも3分以上話すともう長電話と感じるらしいんだよ」「でも携帯メールはそんなに延々と書いたりしないですよね?」「だよね」「なんでも全部手みじかにメールで伝えるんだ」「昔のオレたちみたいにさ、うだうだどうでもいいようなことを話したりしないんだよ」

 会社に入ったばかりの頃は、長々と話しているうちに、気がついたら1時間なんてことがけっこうありました。私の仕事上の小さな事件について心配してくれた、同業他社の先輩から真夜中に電話がかかってきて、ながながと話しているうちに、受話器を持つ手がしびれてきて、話し終わったらしらじらと夜が明けてしまったことも……うーん、なつかしい。もちろん今はもうそんなことはなくなりましたが、ふだん携帯メールでやりとりする若い人たちは、こみいった相談をするときはどうするんだろう?

「あのね、映画を映画館で見る、というのも、若い人にはつらいらしいよ」「映画ですか? つらい?」「つらいの。身が持たないんだって」「身が持たない?」「そうなんだよ。あのね、テレビなんか見てるとするでしょ? テレビドラマとか。そういうときも右手には携帯があって、メール打ってたり、パソコン開いて他のことをしていたりするんだよ。画面はひとつじゃないの。ふたつ見ているのはふつうで、三つ同時に見てる場合もあるらしい。だから2時間暗いところにじっと座って、映画のスクリーンだけ見てるなんて、なんか身が持たない気分になるらしいよ」「へえ。そうですか。じゃあ場面とかあんまり変わんない、セリフものんびりしてる小津映画なんて、地獄ですね」「あははは(笑)。いやしかしさ、たいへんだよね、ぼくたちは。金融危機がすべてだなんて思ってたら大間違い。こういう人たちとどうつきあっていくか考えなきゃなんないわけだから。人はこういうものであるなんて高をくくってると、とんでもなく変わっちゃってることがあるんだよ、気をつけないと」

 先日会ったフリーペーパーを編集している大学生は「編集とか出版の仕事にはすごく興味があったんですけど、出版社ってすごくたいへんそうですよね、深夜残業も多いみたいだし。就職先としてはどうかなと思って」。けっきょく彼女は玩具関係の会社を選んだそうです。彼女はとてもいい表情をした人で、話し方もしっかりとしていて、頭のいい人、というのがすぐに伝わってきました。もし、彼女のように考える人が、潜在的にとても多くなってきているとしたら、これは出版社にとってたいへんなことだな、と感じました。若い人がいま何をどんなふうに考えているのか。ちょっと気になり始めています。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)
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