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 取材を受ける
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「聖書」特集が発売になってから、キリスト教系のメディアからふたつ取材を受けました。共通するポイントは、「考える人」のような一般の雑誌がなぜ「聖書」の特集など組むことになったのか、そこを知りたいということのようでした。

 なぜ、「聖書」の特集か、と問われてあらためて思うのは、雑誌の特集はいつも思いつきから始まるにすぎない、ということです。もちろん、綿密な市場調査がおこなわれたうえで特集が組み立てられる雑誌もあるでしょうし、売り上げの動向をみながらとか、あるいはこの季節にはこの特集を、という考え方もあるでしょう。ファッション系の女性誌なら、定番の特集が月ごとに予定されていて、システマティックに動いているのかもしれません。

「考える人」の場合は、最新号の入稿が始まるあたりから、「あー、そろそろ次号特集を決めなければ」となるのですが、それまでは、ああでもない、こうでもないといくつかのアイディアを頭のなかでためつすがめつしている段階がながいのです。ぼんやりとなんとなく気をつけているのは、あまり早く結論を出さないようにしていること、でしょうか。

 あまりに周到に準備をしすぎると、雑誌としての味がそこなわれる気がするのです。時間の制約がある程度あればこそ、手際よく、気合いを入れて、強めの火力で料理ができる。そもそも「考える人」は季刊誌ですし、編集部は私をふくめ全員が兼務でやっている「寄り合い所帯」です。毎号毎号追い立てられるようにしてつくっている、というわけでもない。だからこそ、最新号の入稿をしながら「さて、次はどうしよう」と少し追い立てられるぐらいの感じで考えるのがいいのです。

 とはいえ、特集のテーマが決まったら、どのような構成にするのかを考えなければなりません。この段階になってはじめて、なぜ「聖書」特集なのか、が見えてきます。「なぜ」は最初ではなく、あとからやってくるんですね。そして今回、キリスト教系のメディアに取材を続けて受けながら、自分がどうして聖書の特集を組もうと思ったのか、あとになって「そうだったのかもしれない」と思う場合もあるのだ、と気づきました。

 お目にかかったメディアの方にお答えした「なぜ聖書の特集だったのか?」の要点は、つぎの三つでした。

 ひとつめ。550年以上前に、グーテンベルクが発明した活版印刷でつくられた初めての本が聖書だった。写本時代から書物のかたちはととのっていたが、できあがるまでのスピードと同質性を可能にした活版印刷による書物として、聖書が最初に選ばれたこと。のちにルターが聖書の判型を小さくし、ドイツ語訳の聖書をつくり、宗教改革の原動力となったことも書物の歴史を考える上で見逃せない。書物の原点としての聖書をみておきたかった。

 ふたつめ。聖書は物語、文学のなかでくりかえし引用され、変奏され続けている。くめどもつきぬ物語や文学の源泉、深い“井戸”としての聖書を読み直してみたい。

 みっつめ。宗教的な時代がはるか遠くにすぎてもなお、宗教的なるものは人びとのこころをとらえ続けている。キリスト教の歴史的背景、聖書の成立事情もたどり直しながら、宗教が今の時代にどのような意味をもつのか、考えてみたい。

 キリスト教系のメディアのかたがたが、「考える人」の表紙にその名前をみつけて、これはと思いながら読まれたものの筆頭は、『新約聖書』の個人訳に取り組んでいらっしゃる田川建三さんへのロングインタビューだったようです。そして、いずれの方々も、田川建三さんへのインタビューを興味深く読んでくださったようでした。

 新約聖書の研究者として、単独者であることをおそれず、静かな情熱を保ち続けている田川さんの、その姿勢はいったいどこからやってきて、どのようにかたちづくられたのか。そのことが、特集のロングインタビューである程度はあきらかになったのではないか、と思います。貴重な時間を割いてくださり、われわれの率直な質問に真摯に答えてくださった田川建三さんに、あらためて感謝の気持ちがわきあがります。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)
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