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 島田隆さん
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 きのうの夜おそく、「考える人」のアートディレクター、島田隆さんの仕事場で打ち合わせをしていました。代々木の森に近い、高台にあるマンションです。マンションのエントランスから島田さんの部屋まで50メートル以上もあろうかという大きなマンションなのですが、低層マンションなので圧迫感がなく、静かです。行きも帰りも、ひとりもすれちがいませんでした。

 100頁近い特集のレイアウトの相談を、ああでもない、こうでもないとやっているうちに日付が変わってしまいました。島田さんがひと息いれましょうと淹れてくれたお茶はほんのり甘く、おいしい。お茶を淹れるとき、その人となりがそのまま伝わってくるのはなぜだろうといつも思うのですが、島田さんのお茶はいつもやさしくあまい感じがします。

 1989年、私が「小説新潮」在籍当時に編集した臨時増刊「アメリカ青春小説特集」が最初の仕事でしたから、島田さんとはもう20年以上のつきあいになります。よしもとばななさんのムック「本日の、吉本ばなな。」も一緒につくりましたし、新潮クレスト・ブックスのムック「来たるべき作家たち」「海外作家の文章読本」も島田さんのデザインでした。「考える人」は創刊からずっと、島田さんのアートディレクションです。

 島田さんは九州の宮崎県生まれ。大学でマルクス経済学を学んだという、デザイナーとしてはちょっとおもしろい経歴の人です。中垣信夫デザイン事務所を30歳で独立してから、ずっとひとりでやっている。何度か書いたと思いますが、「考える人」は頭からしっぽまですべて島田さんひとりによるデザインです。アシスタントもいないので、校了で忙しくなってくると「どうやってるんだろう?」と不思議に思うのですが、しかし仕事は確実で、早い。もちろんうまい。

 島田さんにお願いしていて安心なのは、原稿をしっかり読んでやってくれるということです。ビジュアルを大切にしながらも、テキストをまず何よりも尊重してくれる。おそらく中垣信夫さんの薫陶を受けたことも少なからぬ影響があったのかもしれませんが、島田さん自身がそもそもテキストを的確に読みこなす人で、しかも読みやすいデザインにつくりこむことができる人なのだとおもいます。

 午前1時を過ぎて、いちおうラフ案ができ、プリントアウトができあがるのを待っているあいだ、リビングで雑談をしていました。東側におおきくとられた窓の外を見下ろすと、某大使館のエントランスが見えます。ここも人影はなし。島田さんのリビングはオーディオAVルームも兼ねていて、壁にはぎっしりとDVDのコレクションが並んでいます。

「すごい。いやあ、すごいね。こんなにあるんだ」「いつのまにか増えちゃって」「これってアマゾンで買ってるの?」「アマゾンで買うと安いですからね」「……あ、藤山寛美! 好きなんだ」「へへへ、好きですよ」「ボックスセットじゃないですか」「揃えちゃいました、好きだから」「昔から好きだったの?」「子どもの頃から見てますからね、藤山寛美は」「へえ、そうなんだ……あ、寺内貫太郎一家もボックスだ!」「向田さんですからね。向田さんのドラマは好きですから」

 プライベートなメール専用というマックがおかれてあるコーナーには、神棚のようにしてまたDVDボックスのコレクションが並んでいます。小津安二郎、黒澤明、成瀬巳喜男、溝口健二……。「ここは別格なのね?」「いやあ、ボックスがきれいだし」

 さらにずかずかとキッチンに入っていくと、キッチンの棚にはいっぱい料理本がありました。「へえ、島田さん料理するんだ」「しますよ」「大山町にいたときは外で食べてなかった?」「こっちに引っ越してきたら、近くに食べるところもないですしね。自分でつくるようになったら、そのほうがいいって気がついたんですよ」

 とっくに印刷の終わったレイアウトラフ案のプリントアウトを抱えて、島田さんの部屋をあとにしました。なんだかいい暮らしだなあ。しかしあの5.1チャンネルのスピーカーでウーファーの超低音も響かせて、藤山寛美、見るのかな。大画面の藤山寛美。島田さんの意外な面も発見した、きのうの夜でした。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)
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