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 それでも朝は来る
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「去年、『傷だらけの店長』という本が話題になりましたが、あれを書いたのは、かつての自分の同僚でした」――あるパネリストの発言に、いきなり注意を呼び覚まされました。その本は、昨年8月にPARCO出版から刊行され、筆者名は伊達雅彦となっていました。中規模チェーン店と思われる書店の店長を9年間務めていた筆者が、最後は近隣に大手ナショナルチェーン店が進出したことによって、本部から「閉店」を命じられ、やがては「書店員」の仕事を断念していく――という経緯をリアルに綴ったドキュメンタリーです。ただし、具体的な会社名などはいっさい伏せられていましたので、いまもって私の知るところではありません。

「彼の書店員としての能力は抜群でした。本に対する愛情の深さは圧倒的で、“本に奉仕する”といってもいいほどの思いを注いでいました。それに比べると、自分は“そこそこ”の書店員でしかありませんでした。つまり、彼に明らかに負けたことで、自分の存在価値は何だろうか、と考えるようになりました」

 これは先週の土曜日(7月9日)に開かれた「本の学校・出版産業シンポジウム2011」でのひとこまです。東京国際ブックフェアが開かれていた東京ビッグサイト会議棟で行われたこの催しは、午前中に「いま改めて書店について考える――本屋の機能を問い直す」というシンポジウムを行い、午後からは4つの分科会でそれを受けた各種のテーマによるパネルディスカッションが進められました。その中のひとつ「書店に求められる人材とは」というセッションで、この“同僚”発言が飛び出したのです。

 そこでハッとしたのは、ちょうど1年前のことが頭をよぎったからでした。と
いうのも同じ「本の学校・出版産業シンポジウム2010」の場で、出版業界専門紙
「新文化」の元編集長である石橋毅史さんに、近くこういう本が出ますから、と
勧められて手にしたのが『傷だらけの店長』だったからです。ほぼ同時期には、
早期優遇退職に応じた大手出版社社員のブログをまとめた綿貫智人『リストラな
う!』(新潮社)も出て、話題を集めていました。“電子書籍元年”が喧伝され、
やれ本が売れない、広告収入が激減している、などと、かつてなかったような荒
波に揉まれている出版界の現状を、当事者たちが生々しく綴ったという点では共
通するものがありました。

「考える人」編集長 河野通和(こうのみちかず)
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