橋本治氏は『桃尻娘』で作家としてデビューし、しばらくは「今の若い女の子たちが何を考えてるのか」を世の中が知りたいときの「問い合わせ先」のような役割を演じたり、あるいは、「世の中は少しも私たちのことをわかってくれない」と思う女の子の「相談相手」としての役割を演じたり……という「女の子問題スポークスマン」役を担わされた時代がありました。70年代の末から80年代のはじめの頃のことでした。

 しかし、1985年頃から突然、橋本さんは「女の子」について話したり書いたりすることをやめてしまいます。それは何故だろう、と長い間、疑問に思っていました。今回、「女性」を特集のテーマにしようとしたとき、やはり橋本さんにこのテーマを投げかけてみたい、という思いを捨て去りがたく、橋本さんに相談したのが一年以上前のことでした。橋本さんの反応は「オレがその話をすることになると、身も蓋もない話になっちゃうかもしれないよ、それでもいい?」というものでした。

 なぜ、1985年という年が問題なのか。特集は、この1985年の話から始まります。この年には、国際政治・経済の舞台で大きな転回点が打たれました。それは「プラザ合意」というものでした。この転回点によって、日本の経済も人々の意識も大きな変革を強いられることになる、と当時の日本人がどれだけ意識していたでしょうか? 現在の私たちは、そんなことがあったことも、そしてその出来事が意味することもわからないまま、いまのこの不況という大きな霧のなかで佇んでいるのかもしれないのです。

 プラザ合意とは、1985年、ニューヨークのプラザホテルで行われた日・米・英・仏・西独による先進5カ国蔵相・中央銀行総裁会議で、ドル高是正のため各国が為替相場に協調介入することを合意した、という大きな出来事です。アメリカの貿易赤字と日本・西独の貿易黒字による国際収支の不均衡を、ドル安円高の容認によって是正しようとする目的の、政治的な合意です。

 一言で言えば、この頃から日本は「帳簿上」の金持ちといういびつな状況に突如放り込まれ、それは二年後にバブル時代の幕を開けるための予鈴を鳴らすことにもなり、知性の欠落した消費するだけの大衆の時代、経済至上主義の時代が始まったのです。そしてそれがどのように日本の女性の生き方にもふりかかることになったのか――。

 特集では、橋本さんがなぜ『枕草子』や『源氏物語』の千年前の世界へと向かっていったのか、そして女の色気とはそもそもどこからやってくるのか、セックスとは人間関係の視点からはどのような意味があるものなのか、といった深い問題にまで踏み込んでいくことになります。「身も蓋もない話」になってしまっているかどうかは、特集をお読みになって皆さんにご判断いただければ幸いです。

 なお、特集ページでは、懐かしい日本の女性たちの姿をとらえた木村伊兵衛氏のモノクロ写真と、現代の日本の女性をカラー写真で切り取った高橋ジュンコ氏の作品を掲載しています。あわせてお楽しみください。